第127回('10/01/26)

「エヴァ・コール」第51回定期演奏会

情熱の目が印象的でした。
忘我の様相で熱唱していた団員の姿が心に残ります。
今年の「エヴァ」は熱く燃えたステージとして、これからもことあるごとに思いだすものとなりました。

大学の合唱団は毎年雰囲気が変わります。
それは一年ごとに学生が入れ替わるからです。
もちろん原則として4年間は活動を共にするわけですから、その期間を通じて共有できる価値観とか技術の錬磨、向上といったことでは繋がっています。
「技術顧問」という仕事でたずさわっている私としては、その連環によって合唱の技術を伝えることができるわけです。
連環の安心感がなければ、不安定かつ不十分な伝達に終わってしまうのではないかという危惧を抱きます。
私としては当初、4年を一サイクルと観ていたのですが実際は一年ごとの積み重ね、その絶え間ない成長が望まれています。
なかなか厳しい仕事ではあります。(笑)

時折、沢山の良い夢を見る中、「悪夢」を想像することがあります。
「悪夢」は想像の話です。(笑)
内容は・・・、引き受けてうまく成長し続けている合唱団。多くの卒団性を送り続けて何代にもなり、自他共に許す「良い合唱団」
それが年度初めに向かえた新入生が異色学生と噂される集団。(笑)
よりによってその多くが噂を聞いてか合唱団に入団してくる。
それが切っ掛けでそれからというもの、それまで成長し続けてきた合唱団がギクシャク。
気がつけば伝統は中断、「新しい楽しい合唱団づくり」というスローガンのもと新しい道が引かれていくのですが・・・・。
4年が経ち、あの燃え上がらせた異色集団は卒業間近でバラバラとなり、それぞれがそれぞれの人生へと旅立っていく。
残るは残骸となった合唱団!?・・・・・・・。
これは私にとって恐〜い、見たくない「夢」です。(笑)

まぁ、そんな恐〜いことを心の一番底に隠し(笑)、奥深く沈めながら、一人一人全員に最高の想い出を作って貰おうとアドヴァイスと指揮をした今年でもありました。
始めにも書いた、今年の「エヴァ」が記憶に残る団となった原因が幾つかあります。
先ず、去年50回定期という記念の年を終えた団員たちがその後どのように歩み始めるかという思い。
委嘱作品による初演を済ませた学生たちです。(委嘱作品 千原英喜 混声合唱組曲「月天子」)
大きな節目を残した彼らたちが次へと一歩を踏み出します。それがどのように現れてくるか?
正直に書きますが、その思いというか期待とでもいうか、それと現実との間で少しギャップを感じました。
思った以上に「大人しい」といった印象だったのですね。
しかし、少なかった練習ではありましたがその音楽にはしっかりとした「骨」を感じたのは確かなことでした。
そして今年入団してきた団員たちのエネルギーです。それは相当な良質なエネルギーと私には映りました。
(夢で登場するような集団ではなかったわけです!(笑))
この伝統を培ってきた学年と新しく加わった学年のバランスが見事にかみ合ったのですね、今年は。
この絶妙のバランスによって印象深い演奏をなり遂げたのではないかと私は思っています。

「エヴァ」の練習後、飲みに行くことが定例となっています。昔も定例化していた時期があったのですが、いつ頃からか消滅。(毎年変わる雰囲気の故ですね)
それがここ数年来また復活したものです。
ビール好きのピアニストも居たりして(笑)、その場は本当に楽しい。学生たちとの会話も私にとっては刺激的なことも多く、興味津々。
学生たちにとっては酒代もままならぬことでしょう。また一応先生という立場(先生らしからぬ先生でありたいと思っている私なのですが)の人の接待とも受け取られがちな場ですから苦手な者もいる筈です。
そんなことを思いながらも率先してノレンを潜ろうとするのは、楽しいことが好きな私の性格と、とにかく「コミュニケーション」を取りたいという一念からですね。
とにかく、合唱は瞬時のコミュニケーション術がものを言います。「合わせる」ことは簡単そうで実は相当難しい。
どんなに個人としての音楽的能力はあると思っていても合わせられないと合唱人にはなれません。
バラバラの統一性のない合唱はただの「烏合の衆」と化します。
真は問わないでおきますが(笑)、合唱人は先ず「仲良く」なければなりません。互いが信頼できなければなりません。
音楽において信頼をベースにして目標を一つにしなければならないのですね。求める音楽が同じでなければならないわけです。(曲の解釈に違いがあれば混乱します))
呑みに行ったりしたときに感じたことなのですが、今年の「エヴァ」、学年間の仲が良いのか悪いのか。これがちょっとつかめません。(笑)
近い回生間では仲が良いのは判るのですが、学年が違えばもやもやの感じです。

でも、練習でいつも感じたことは確かなハーモニー感とアンサンブル力でした。
結果としての音楽はいつも期待を感じさせるのに充分だったのですね。
合わせとして響きが倍増しています。
そして特筆すべき事として、一度のアドバイス、注意が直ぐに成果に表れることです。
つまり、集中力と、理解力と持続性があるということなのです。これは練習が楽しくなるはずです。
一人一人をみればそう特筆の才能をもっているとは思われないのですが(失礼!(笑))、合唱人としての今年の団員は特筆すべき集合体となりました。

真っ直ぐに向かう姿がそこにありました。
私の棒に瞬時反応する動きがありました。
フォルテを要求すれば何としても応えようとする意志がありました。
フォルテの持続を指示すれば体にむち打って(笑)延ばします。
後は音楽的要求をいかにするか、これにかかってきます。
つまり指揮者の仕事にかかってくるわけです。
これは本当にやりがいのある仕事ですね。
そして当夜、いかに気持ちが良かったか。
こういった本番はそう学生の演奏会で起こるわけではありません。
その起こりそうもないことを「エヴァ」は今年やってのけました。
(私の振るステージだけでなく、学生が振るステージも良かったですね。学生らしい、気持の良い、充実度も高く、そして闊達な気風が伝わってくる好感度抜群のステージでした)

感傷に陥るのは避けたいのですが、卒団していくメンバーを見るのは辛いですね。
もちろん、そのメンバーにとってみればこれからの長い人生の中ではホンの一コマに過ぎないことではあります。
しかし、棒を振りながら思いが込み上げてきます。卒団していくメンバー一人一人にこれからの人生を応援したい気持ちと、このステージを良い想い出にして下さいねという願いと、本当にここまで良く頑張ったねという労いと、感謝の思いがいっきに溢れてきて泣いてしまうことしばしばです。
こういったステージは学生ならではです。
今年も私は泣いてしまいました。学生も泣いていました。(会場に駆けつけてきていたシュッツのメンバーたちも泣いていたようです)

団は変化していきます。
良いように変化して貰いたいために私はいるわけです。
長いスパン、歴史を大きく紡ぐ目線で指導しなければならない仕事だと認識しています。
今年の充実が良い形で来年へと受けついでいってもらいたいと願うばかりです。
書き記しておきたい、記憶に留めておきたい、「良いステージだったよ!」って伝えたい。それがこの拙文となりました。
歴史を刻み続けるのは難しいこと、しかし遣り甲斐のある、刺激ある楽しい仕事です。

第127回('10/01/26)「「エヴァ・コール」第51回定期演奏会」この項終わり。


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