第130回('11/01/01)

2011年 年頭に想う

小さい頃から先頭に立たされたり、前に立たされることが多い子どもでした。
悪いことをして罰を与えられたからではありません。
役を言い付かったり、例などに上げられて、歌わされたり、発表させられたり、目立った子どもだったようです。
それが中学3年ぐらいから変わり始めました。

人前に立つのが嫌になりました。友だちと喧嘩をしました。人が恐くなりました。それでも前に立たされるものですから、顔で笑って心で白けてる嫌な子どもになりました。
音楽にのめり込みました。幼い頃から英才教育などではありませんでしたから、音楽家になるための一貫したものではありません。
行く先々で「音楽」で前に立ちました。
益々、ギャップが大きくなりました。
友だちが少なくなりました。でも沢山の人に知られるようになりました。私は卑屈になっていきました。
出来るだけ他では目立たないようにと思うようになりました。 親友を作りたいと強く思いました。結局長続きしませんでした。

音楽が「私」になりました。
私の感情は音楽で充たされることを知りました。言葉でなく音楽が私の表現でした。

学校の成績など苦になったことがありません。競争など何処吹く風でした。いつも成績を突き付けてくる者、
あおる者を「変」だと思っていました。その人たちに魅力を感じなかったからだと思います。(何を考えているのか解らない子だったようです)
目標がありませんでした。目標の価値が解りませんでした。あるのは「音楽」をしている時の「私」の自覚でした。
その辺りからです。静かで、暗くて、自分に閉じ籠もり始めたのは。外の世界への窓は「音楽」を通じてだけだったように思います。
私って何だろう?
何故生まれてきたのだろう?
どうして生きていくのだろう?
私って価値なんかあるのだろうか?
その毎日でした。本当に暗い男です。(音楽の時だけが笑顔だったのではないかと思っています)

28歳になって、何かに押されるように「団」作りが始まりました。念願の友だちができるかもしれない、そして一緒に音楽できるかもしれない。その「押され」に身を任そうと思いました。
私が指導して歌ってくれる仲間ができました。無口で暗い男が始動し始めたわけです。
アッと言う間です、団を作って今年で35年が経ちました。いつも、友だちになりたいと思う音楽作りでした。
作曲家と、演奏者と、聴いて頂く方々と、友だちになりたいと思うアプローチでした。
音楽に誠実でありたいと仲間に訴えました。心を打ち明けてこそ真なる友だちができると思っていましたから、飾ることをしないで心からの表現を求めました。
納得いく音楽を徹底的に求めました。規範的なことでなく、私も皆も納得いく、感じることだけを求めました。

気がつけば音楽の低迷が囁かれていました。クラシックの演奏会場はお年寄りが圧倒的になりました。往年のファンのエネルギーだと思われます。若者への浸透が叫ばれていましたがその様子はありません。巷には音が溢れています。その音は電気的な豊潤なサウンドに満ち、有りとあらゆるジャンルの様式が混在して多様化が進んでいます。よく知られた演目をよく知られた演奏家によって解りやすく音楽されたものが好まれています。
一種の拡散と回帰様相です。手を替え品を替え、目先を変えて演奏会は行われますが、低迷は緩やかかもしれませんが今後も続くと思っています。音楽の新しい、いや、精神の新しさは好まれていないかもしれませんし、必要ともされていないかもしれません。

さて、それでは2011年の「大阪コレギウム・ムジクム」の音楽をどう発信していけばいいのか?
真剣に考えなければなりません。
暗くて(最近は少し明るくなったと思いますが)、直ぐに自分に閉じ籠もりやすい私が立って、どの方向を指し示すか。
軽はずみに勢いづきたいとのことではないのですが、この一年を通して指し示したいことは沸々と沸いてきているように感じています。
先ずは新事務所への移転です。その経緯はホームページなどを通じて報告する予定です。
これまでは私のイメージする物件には当たっていないのですが、是非とも人の出入りの多い、闊達な気風のある事務所づくりを目指したいと思っています。
演奏はより幅のある表現をしていきたいですね。その具体的なものはこれから様々な方法を用いて発信していく所存です。
音楽を通じてコミュニーケーションを、と言い続けています。要は心と心の交流を果たしたいということですね。
「友だちになってくださいませんか?」、できれば作曲家とも演奏者とも「友だちになってくださいませんか?」
この発信を弛めたり止めたりすることは私にはできません。
これからも「音楽」を通じて叫び続ける所存です。
今年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
風の強い、20年振りの雪の少ない北海道はニセコからの所信表明です。

第130回('11/01/01)「2011年 年頭に想う」この項終わり。


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