第131回('11/01/06)

2010年を振り返る[いったい私は何を表現したのか?]

2010年の公演は以下のようにまとめることができます。
「大阪コレギウム・ムジクム」主催による全公演回数は18を数えました。
先ずは「日本福音ルーテル大阪教会」のご協力のもと、毎月行われている月例演奏会「マンスリー・コンサート【音楽市場】」。回数は11回(8月はお休み)です。
第330回(1月27日)に始まり、第340回(12月23日)【クリスマス・スペシャル】で終わりました。

photo by 中谷裕美

12月【クリスマス・スペシャル】photo by 中谷裕美

「マンスリー・コンサート」は私にとっても団にとっても最も大事な演奏会です。骨幹を成す活動の基盤です。
ここでの取り組みが新しい表現法を生み出してきました。また団員一人一人の実力向上、アンサンブル向上が聴衆の方々のご声援のもと成果を上げてきました。
私の目指す「音と構造と言葉の明瞭性」がここで培われました。
音楽を通して「何を表現するか?」という目的、その手段としてのテクニック、素材が創り上げられていったコンサートでした。
「シンフォニア・コレギウムOSAKA」、通称「SCO」は室内楽で音楽を提供しています。珍しい曲を聴いて頂けるのもこの演奏会の特徴です。
「室内合唱団」はア・カペラを中心にシュッツの作品を核として、教会音楽から現代日本合唱曲まで幅広く演奏。今年はお客様のリクエストにお応えする形で「賛美歌」をシリーズ化しました。
気取らず、肩肘張らず、いつも傍らにある音楽を。しかも演奏は良質で、これがコンセプトです。また、音楽、演奏といった行いが如何に作り上げられていくか、それも同時に見続け、見守って頂きたい、それが私の願いです。

photo by 中谷裕美

12月【クリスマス・スペシャル】photo by 中谷裕美



「大阪ハインリッヒ・シュッツ室内合唱団」は第44回定期演奏を迎えました。
室内オーケストラである「シンフォニア・コレギウムOSAKA(「SCO」)」は第59回定期演奏会となりました。
それぞれが独立しながら活動していると同時に、合唱とオーケストラによる作品では同一指揮者(当間)のもと、音楽語法の統一によってより新しい表現法を追求しています。
「大阪コレギウム・ムジクム」は主にこの二つの演奏団体による総称です。
メインとなる音楽シリーズがこの二つの団体によって進められています。




「現代音楽シリーズ」(いずみホール)Vol.20

「シュッツ」という名を冠しているものの、日本では「現代音楽」での評価を初めて頂きました。勿論合唱団は「シュッツ」の音楽を研究、普及させることが目的で創設したのですが、ドイツでの演奏会(高い評価を頂きました)を経て「シュッツ」の精神に基づいて日本の「現代音楽」の演奏にも力を注いでいます。
日本人が日本人の作品を演奏する。その当たり前のことをしようとする決意です。日本を代表する、あるいはこれから日本音楽を背負って立つ作曲家との共同作業での活動です。
特に、千原英喜氏との活動ではこれからも氏の斬新な作品を通して日本の「心」に迫っていきたいと思っています。演奏会でのライブ録音は全集CD化されています。

現代音楽シリーズ

10月「現代音楽シリーズ」(いずみホール)リハーサル風景 photo by 倉橋史子



クリスマス・コンサート(いずみホール)

オルガン弾きであった私にとって(教会オルガニストを30年近く務めました)、教会音楽を演奏することは一番近しいことでした。
特に、クリスマス音楽は合唱音楽の宝庫です。より多くの人に名曲に親しんで頂けることを願っての恒例のコンサートとなっています。
一年の締めくくりとして、また来る年を平和であって欲しいとの願い、祈りを込めて演奏したいと強く思います。
前半のア・カペラ、そして「シンフォニア・コレギウムOSAKA」のアンサンブル、後半でのキャロル集ではご来場の皆さんに本当に喜んで頂いていることをステージ上から感じることができています。ステージと客席とが一体となる胸一杯のステージです。

クリスマス・コンサート

12月「クリスマス・コンサート」(いずみホール)photo by 倉橋史子



京都公演【邦人合唱曲シリーズVol.16】(京都府立府民ホールアルティ)

ヨーロッパ音楽を中心に演奏してきた私にとって、ドイツでの演奏会を境にして「邦人」の作品にも力を注ぐようになりました。
新作(委嘱作品も含め)以外にも、往年の作品をリメークしての演奏です。作品の新しい魅力を見い出したいとの思いが強いです。
今年は以下のようなプログラムとなりました。
西村 朗/無伴奏混声合唱組曲「鳥の国」(詩:佐々木幹郎)【2010年委嘱 世界初演】
高田三郎/混声合唱とピアノのための「ヨハネによる福音」
千原英喜/混声合唱のための「方丈記」
千原英喜/小倉百人一首より「歌垣」
上田真樹/混声合唱とピアノのための組曲「夢の意味」

このシリーズでの演奏がCD化されています。
残念ながら写真はないのですが、16回に及ぶこのシリーズは私にとって忘れられない演奏や出会いがありました。
特に柴田南雄先生と、その作品の演奏は決して忘れることのないものとなっています。




「東京定期公演」第16回

早くも16年が過ぎました。最初は「朝日浜離宮ホール」から始まった「東京定期公演」。
大阪や京都で演奏した演目を、是非とも東京の方々にも聴いて頂きたいとの思いから始まったものです。
2〜3年続けばいいかも、と思っていましたが早16年が経ってしまいました。

東京定期公演

11月「東京定期公演」(第一生命ホール)リハーサル風景 photo by 倉橋史子

東京定期公演

11月「東京定期公演」(第一生命ホール)photo by 倉橋史子

会場を「第一生命ホール」に移してからは、ここのスタッフの方々の気持の良いサポートに恵まれて一年に一度の演奏が待ち遠しくなっています。
「ルネッサンス」から「現代音楽」まで、ここでの演奏は万華鏡の様相を持っているかもしれませんが、音楽家、演奏家としての全てを投入する表現です。
伝統に学び、新しい方向を探る。その「今」の魂の叫び、動きを表現したいとの思いが強いです。




「名古屋公演」Vol.3(三井住友海上しらかわホール)

名古屋で新しい合唱団(「名古屋ビクトリア合唱団」)を作りました。その合唱団が軌道に乗ったところで、名古屋の方々にも広く音楽を提供したいとの思いで始まった定期公演です。
音響の良い「しらかわホール」、新しい出会いを求めて始まりました。
名古屋の音楽環境には疎かった私。公演を重ねる事に新しい発見と出会いがあります。演奏者としては刺激の多いステージです。これからはより広く愛知県の方々に喜んで頂けるようなステージをと、プログラムを考えていきたいと思っています。

名古屋公演

3月「名古屋公演」(しらかわホール)リハーサル風景 photo by 倉橋史子



こどもとおとなのためのコンサート Vol.3(鶴見区民センター大ホール)

次代を担う子どもたち、そして親子のコミュニケーションのためにと企画しました。子どもだからと演奏曲目を子供用に選ぶことをしていません。
知っている曲、知らない名曲、そして大人のための曲も取り混ぜてプログラミングするよう心がけています。
合唱団にとっては「パフォーマンス」の発揮できるステージ。
団員の個性が光ります。このステージの表現が合唱(歌)の表現法を深めます。
子どもたちは正直です。子どもたちの笑顔がなによりも物語ります。時には親を越えて身を乗り出して見聞きする子どもたち。
私にとってこの視線が一番恐いかもしれません。

親子コンサート

7月「こどもとおとなのためのコンサート」(鶴見区民センター大ホール)リハーサル風景 photo by 倉橋史子




その他の活動は以下の様なものでした。

大阪ハインリッヒ・シュッツ室内合唱団「鹿児島県合唱振興基金創立10周年記念演奏会」(宝山ホール(鹿児島県文化センター))
一年を通してこうした、各県に訪れての演奏会を企画したいと実は思っています。ただ、そのスケジュール調整が困難で私の願いはそう簡単には果たせないでいるのが現状のようです。
CDを通じて、あるいは発声やそのDVDを通して演奏会の打診を頂いています。私としても私たちの「ライブ」を感じ取って頂くのは現地へ訪れての演奏が最適です。
できる限り可能にと思うのですがなかなか上手くいきません。しかし、いつでもお申し出に添えるようこれからも調整可能を目指したいと思っています。


関連団体と共に「イタリア演奏旅行」に出かけました。歴史的演奏をしてきたと自負しています。ビクトリア、モンテヴェルディの作品、そして千原英喜作品、その紹介は意義深いものと思います。
CD制作による録音演奏。
「ライブ」が一番だと思っているのですが、スケジュールやらプログラミング、貸し会場(ホール)の関係から録音を目的とした演奏をしなければならなくなりました。このためのスケジュールは大きく全体を圧迫しているようです。しかし、作品や演奏の旬は待ってはくれません。CDによってより多くの方々に作品をお届けすることができます。これからもできるだけ早くお届けできるようスケジュールが組まれることだと思います。

「合唱講座」。アンサンブルのノウハウ、発声法など合唱を楽しむための講座です。
東京、名古屋、京都での3日間にわたる「合唱講座」が恒例として行われるようになりました。
沢山の方々が受講して頂いています。全国各地の遠方からも来て頂いていて私が驚いているほどです。
これからも続けていく所存です。

女声合唱や大学の合唱を指導しています。これらはそれぞれの団に合った指導となるのですが、その基本的なものは全てOCMの活動によって試され、成果を上げたものに依っています。
今年も声に関しては「母音」の構成を探り、試しました。これはより言葉を鮮明にし、響きを美しく保つためのものです。美しい響きで明瞭に言葉を聞き取ることができる、この課題に今年も挑んだと思っています。母音の音色は気持ちを伝えます。歌い手の感情を客観的にだけではなく主観的な色も帯びて表すことになります。歌い手の「心」が問われることになります。
作品を通して歌い手の「想い」を伝えたいと考えます。作品との共振を得なければならない「想い」です。形を伝えるのではありません。「それ風」を演出するためではありません。
「生きている[感情]、活きた[想い]」を伝える。それが私の表現法だと思います。

「シンフォニア・コレギウムOSAKA」は音色に拘ったようです。美しい響きは弦楽器の大きな魅力です。
またアンサンブル力が大いに優ってきたと評価して頂いています。現代楽器を使用しながら歴史的奏法、表現も統一されてきています。
バロックから現代作品とそのレパートリーは拡大しつつあって、その表現は私の意図するところと重なりつつあります。
合唱団との協奏は最良の組み合わせでしょう。互いを知り尽くし、信頼に立つ演奏がここにあります。
一人一人の想いが「他」と合わせて一つの表現となる。その表現は美しくまた強力なものとなった、そう思っています。

今年(2011年)も更なる表現をと思っています。何を表現したいのか?
これは音楽家である限り、永遠の課題です。音楽を通して何を表現し、伝えたいのか?
「人間」に拘る私です。伝統は大切にしなければなりません。それに学ばなくてはなりません。
しかし表現はそれを凌いでの血の通った伝統の続きでなければなりません。
今を活きる「人間」の魂の息吹でなければなりません。
「人間」であるための「人間」の魂。
深淵だと思います。
私の演奏は「信仰告白」だと思っています。偉大な先人への、そして信じたいと思う対象への。
私は全てをさらけ出した身となります。全てをさらけ出して良い身とならなくてはなりません。
それをこの一年果たすことができたか。
この問いはこれからも続けられます。

第131回('11/01/06)「2010年を振り返る[いったい私は何を表現したのか?]」この項終わり。


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