第1回

「アンサンブル」の問題点

ここでいうアンサンブルとは演奏グループとしての名称のことではなく、<合わせる技術>という意味で使います。
<合わせるコツ>のポイントは「出と終わりを揃える」とか、「ピッチを合わせる」とか、「バランスをとる」といったことが挙げられると思うのですが、今回は「ソロ(独唱・独奏)」と「アンサンブル(合唱・合奏)」の関係、そのバランスについての話を聞いていただきたいと思います。
「ソロ」の場合、個人としての音楽性や個性の魅力を発揮せねばなりません。
一方、「アンサンブル」のメンバーとして奏したり唱したりするときは合わせる相手との関係が優先されます。たまには火花を散らすような個性のぶつかり合いの「アンサンブル」がありますが、これらはある一定のレベルを越えたところでの話。普通は、いわゆる相手を立てたり、譲ってもらったりの演奏でしょう。
小さな編成での合わせでは、個性優先の度合いが高まるのですが、大合奏や大合唱などでは一人一人の個性の割合は比較的弱くなるというものです。
合唱では個人的に突出することは禁じられます。これを許されるのは独唱部分のソリストだけでしょう。
ですからソリストは外部からゲストとして呼ぶ、ということになります。この時の図式は私には一人の英雄と一群の対決として映ります。対決だとまだ良い方で、英雄に率いられている兵士の一群と映った場合は悲惨です。
「ソロ」での個性と「アンサンブル」での協調性を合わせ持つ、これが私が目指す合唱団であり、オーケストラです。
フルオーケストラでの弦楽部ではアンサンブルとしての一員の役割です。それに対して管楽器奏者たちはソリストとしての性格が大ですね。一つのパートに一人なのですから!
ですからオーケストラではこのバランスを保つことはとても大事な事とされます。ここに数あるオーケストラが一様ではなく、様々な色合いの魅力があるという秘密が隠されているというわけです。
合唱では全ての団員が「アンサンブル」要員としての一人一人ということに思いがちです。しかしこれでは魅力は半減です。「ソロ」と「アンサンブル」の二つの要素を併せ持った合唱団、それは理想像に過ぎないのでしょうか。
私はこの理想像を追うべく、合唱団では<発声の見直し>、そしてオーケストラでは<アゴーギクの重視>(これについては少し説明がいるかもしれません)という課題に取り組んだわけです。

第1回「アンサンブル」の問題点(この項次回につづく)