第14回(96/12/1)

和歌山「初演」事情

昨日(11/30)、和歌山の市民会館小ホールでバッハの「クリスマス・オラトリオ」を演奏しました。
和歌山での初演となるそうです。
そういえば、団員から、「うちが演奏するものは間違いなく<和歌山での初演>となりますよ」と聞いていました。
この合唱団が「和歌山バッハコール」と名称を変えて活動を始めてからもうそろそろ10年になるそうです。
当時の合唱団の代表から私に「是非、和歌山の地にバッハを響かせたい」と話を持ちかけられたことがそもそもの始まりでした。
その意気込みとは別に、当時の合唱団は、発声や様式といったものに関してバッハを歌うといったこととは相当かけ離れていました。
「バッハとは何ぞや」というのはその際問わないこととしても、コラールがハモらない、ポリフォニーもダメとなれば少し躊躇しましたね。

話を持ちかけてくれたその代表に、「5年ぐらいかかるかもしれないが、それでも良かったら引き受けましょう」と答えて出発。
すでに、これまでカンタータの数曲、モテト、そして「ヨハネ受難曲」「ロ短調ミサ曲」と歌ってきました。(すべて、和歌山で始めて鳴り響いた曲ばかりです)
演奏会が終わっての「打ち上げ」の席上、いつも私は不満を言っていたそうです。
団のレベル向上のために「発声教室」を開きました。またメンバーであった和歌山大の先生にはバッハについて、あるいはヨーロッパ文化のお話をしていただき、勉強会なるものも開設して団員への理解につとめました。
演奏曲目もアカペラを入れるなどして、意識の改革や、合唱のノウハウを伝えました。
その成果が回を増すごとに、少しづつではありましたが、実ってきたことは団員自ら自覚していったことだと思われます。

「バッハが大好きです」「バッハって面白いね」というアンケートがありました。
嬉しいですね。ドイツ語の歌詞、堅苦しい雰囲気でのクラシック演奏会というイメージの中でこのようなアンケートがあったのは本当に嬉しいことです。それもどうも若い人のようなのですね。
昨日の演奏会場は「熱気に満ちていた」とは言えないまでも、温かく、そして演奏を楽しんで頂いていたのは伝わって来ていました。
スヤスヤとお眠りの方や、演奏の最中に歩くといったこともあったそうですが、それはこの際、とやかくは言いますまい。(以前の演奏会では包み紙を広げて食事をされていた方もおられたようです)
これまで和歌山のクラシックファンは地元ではなく、大阪まで聴きに行くのが普通だったそうですね。
その風土(クラシック音楽が盛んだとはいえないでしょうね)の中に「バッハを響かせたい>といったその言葉は私の耳に今も聴こえて来ます。
合唱団員にすら、バッハに興味と面白さを持ってもらうのには時間がかかりました。それをどう聴衆に伝えられるか、それが課題なのですね。
<初演>することの功績など関係ありません。
その<初演>によってどう広がっていくかが私にとっての切実な問題なのですから。