第15回

96年度レコード・アカデミー賞(34回)にノミネート

聞いて驚きました。
「クリスマス・オラトリオ」のオーケストラ練習をしていたときに合唱団員から、レコード・アカデミーの選考でわれわれの「柴田南雄・その響き1」がノミネートされていた、と聞いたのですね。
詳しく知りたかったので、すぐに雑誌(レコード芸術)を買ってきてもらい読みました。
「現代曲部門」「日本人作品」「日本人演奏」の三つの部門にノミネートされ、その関連記事の中に以下のように記されていました。

<柴田南雄の「その響き1」も、その長い生涯の最後、死の年に発売されたCDで、この作曲家の長年にわたる輝かしい創作活動にふさわしいものであった。当間修一指揮の大阪コレギウム・ムジクムの演奏も、ひじょうに充実したものであったし、レコード・アカデミー賞にふさわしいCDとして三人とも推薦した。しかし、CDを通じての音楽といえば、武満のオーケストラ曲の方が、柴田のいわゆるシアター・ピースよりもいっそう効果的であるという意味で、三人は最終的な結論として、武満のCDの方を選んだ。>(船山 隆氏)

<1996年という年は、武満徹と柴田南雄という、二人の偉大な作曲家を失った年として記憶に残る年になるだろう。・・・・・・・しかし今回の選考会で、武満徹と柴田南雄のCDが最後まで討論されたのは、こうした情況を背景にしたものではなく、あくまで音楽そのものへの評価である。この点、柴田南雄の音楽は本来シアター・ピースであったため、音のみでは不利であったことは否めない>(佐野光司氏)

とあったのですね。
”寝耳に水”だったものですから、しばらくは考え込んでしまいました。

柴田作品に出会い、その演奏を通して多くのことを学びました。
演奏されたテープやCDを参考にしようと聴くのですが、今までの演奏は正直言って参考にはならなかったのです。
音楽の運びや、構成などは参考になったかもしれないのですが、肝心の<音>としての信頼性がない。
私が目指したもの、それは楽譜に書かれた音を忠実に再現すること、シアター・ピースとして言葉や音があいまいになってしまいがちな演奏を、我々の演奏によって明瞭化することでした。
柴田先生も私たちの演奏においてそのことを信頼して下さっていたのだと思います。
この度、このようにノミネートされ、最後まで選考にあたって討論されたことは本当にうれしく思います。
柴田作品はこれまでどちらかというと、シアター・ピースとしての独自性が先行しがちな評価でしたが、我々のCDによって、柴田作品の音楽そのものにも新たな評価を与えられる機会となったとすればこんな嬉しいことはありません。
それは正に私が意図したことだったのですから。
私たちのCDによって多くの方々が柴田作品に触れるきっかけとなるならばこれに勝る喜びはありません。

年末に、それも今年最後の演奏会としての「クリスマス・オラトリオ」の練習の時に、このようなニュースを受け取ることができたのは本当に嬉しいことでした。
私がそれぞれの音楽に意図していること、そして音楽活動にとって重要だと考えていることを正に理解していただき、同感していただけることは非常に嬉しいことです。
来年も演奏史において意義のある演奏会をおこなっていきたいと思っています。

現在、「柴田南雄・その響き2」を発売中です。
また、武満 徹の新しい響きを追求した「うた」全曲、「風の馬」を来年にリリースする予定となっています。