第35回('98/6/4)

もう一人の演出家・野田秀樹

「課外授業ようこそ先輩」というTV番組を見ました。
面白かったです。
蜷川幸雄のことを書きましたので、野田秀樹のことも書かなければと思っていた矢先のこの番組でした。
以前から彼の演出には興味があったんです。
何で彼のことを知ったかはハッキリとは覚えていません。
ただ、残念ながら彼の舞台を未だ見ていませんので、雑誌による記事からではないかと思います。

番組の内容は、彼が母校の小学校を訪れて一日授業するといったものです。
彼のそれはユニークです。
午前中は遊びを通じて子供達とコミュニケーションを図ります。
しかし、それは深い示唆を含んでいるんですね。
例えば、ボール(バスケットボール?)を人に放り投げるといった行為。
はじめ投げ手は誰彼となく投げる。
しかし、相手の目を見て投げなければならない。そうでないと受け手は確実に受け取れないのですね。
この日も、生徒の一人がボールの飛んでくるのに気が付かず、不用意な取り方のために爪を剥がすけががありました。
次にボールだけではなく、「言葉」を伴って投げます。
「言葉」を伴ってのこの遊びは、「言葉」というものはむやみに発しても通じず、相手の「目」の確認をもって始めて意味をもつ、そのことを生徒に身をもって教えることになるんですね。

もう一つの遊び。

これは我々が音楽する上での「アンサンブル」に通じるものでしたね。
遊びはこうでした。
生徒達は思い思いの方向に歩きます。
その動きに突然、ストップがかかり、生徒達は静止します。
そこから、一人、二人、三人と動いていくのです。
はじめは一人だけ動きます。
他の人は動いてはダメなのです。
つまり、動き始める人はハッキリと意志をもって歩き始めなければなりませんし、他の人は察して、止まっていなければならないのです。
二人になったときはもっと困難を伴います。
二人だけしか動いてはいけないわけですから、感覚を研ぎ澄まして周りの動きに瞬時に反応しなければなりません。
全員が動くのではなく、その中の二人だけが動く。
これ難しいですよ。(生徒達も悪戦苦闘してました)
そして、それが3人へと増えれば、もっと難しくなりますね。
3人が終われば、2人、1人とまた数を減らしていきます。
この遊びに含まれる「アンサンブル能力」は、今の学校教育の中で忘れられている、あるいは軽視されている事柄のような気がします。
見ていてこんな授業があればいいなと思いましたね。(でも私の小学生、中学生時代は形こそ違え、こんなことしていたように思います)

セリフの連射、肉体派?演出家としての野田秀樹の顔が少しだけ覗けた風景でした。

午前中はこのような遊びで終わります。
昼からは「芝居」をします。
幾つかのグループに分かれ、台本の部分部分を作り上げていくのです。
各グループごとにシーンが割り振られるわけですから、セリフ覚えの負担が軽かったり、各グループごとに特色ある演出ができるんですね。
見事に生徒達は個性を出し始めます。
意見の対立、協調、アイデアを通して最後には面白い、興味ある芝居ができあがっていました。

今ここに、蜷川幸雄と野田秀樹の対談が載っているパンフがあります。
これは野田地図 第五回公演「ローリング・ストーン」に頒布されたものです。




蜷川が言います。
「野田秀樹が(台本)書いて俺が演出して、いいのができたら外国へもっていこう。」
この二人の組み合わせ、見てみたいのもです。

第35回「もう一人の演出家・野田秀樹」この項終わり。