第79回('02/9/19)

団を離れた人たちのことについて

実は、この「団を離れた人たち」について書こうと思い始めて二、三年は経つでしょうか。
しかし、迷いがありました。
<悠然として事に触れない>、これが見送った者の心得。
わざわざ事を荒立てる必要もなく、書くことで、一方的な<言い分>だと思われるかもしれないリスクを負ってまで、記述することは控えるべき。
「離れた人たち」が心機一転、新しい場所で<自分の居るべき場所>を作ってくれることこそ願い。
<何も触れない>、これが「離れた」人たちに対する「見送った」者の姿勢。
その思いが書くことを止めていました。

30年近くなるその道程(みちのり)の中で決して多くはないと思うのですが「別れ」がありました。
当然ながら仕事の関係、家庭の事情などによって「離れざるを得ない」状況での「別れ」もあります。
その人たちと「団」は今でも親交を暖め合える関係です。
「離れてしまった人」もそれぞれの想いで関係を考え、それぞれにそった心の解決を図っての生活ではなかったかと想像します。

しかし、気になるのは、<意見のくい違い><感情のもつれ><性格的な相違>が表面化して「離れていった」人たちのその後です。

アンサンブル(室内オーケストラ)の人たちとの「別れ」は総じて<建設的>です。
「音楽」を通して、「技」を通しての付き合いですから、各々の<向上>のために<別れ>も惜しみません。
また、<別れ>た後の関係も紳士的な関係が保たれると思っています。

合唱団の<別れ>には二種類あります。
その区別は合唱団の<成り立ち>と<特徴>に起因。
専門的課程を経た人たちだけの集団ではない、そのことが二つの<別れた後>をつくります。
専門課程を経ていない人たちが「合唱団を離れること」で「音楽活動」から<離れる>場合。これはその人が選択した人生がより良く充実したものになるよう願っての別れです。
そういった<別れ>をした人がそれぞれの生活の場を持ち、近況を知らせてもらえるのは感無量です。
専門的課程を経た人たちが離れる場合も、より良い充実した活動を心から願っての<別れ>となります。よく人のいうところの<嫉妬>や離れることに対する<憎悪>の気持ちなど起こりません。
「アンサンブル」と同じくそれぞれの<向上>を願っての「別れ」です。
ただ、「アンサンブル」と違って少し気になる動向になるのは<声楽>という分野の特徴からでしょうか。
幾人かのその人たちは、その後の活動の中で、私たちと共に活動した時期、その経験をプロフィールに掲載していません。
別に取り立てていうことではないと思いながらも、その書かない、書けないでいる心境が<音楽の在り方>に顕れるのではないかと懸念します。

もう一つの<別れ>が私を悩ませました。
私の脳裏に深く刻み込まれているそういった何人かの「合唱団を離れた」人たちがいます。
「離れてしまって」何年になるのでしょう。私はいまだにそのことについて考え、私の生き方の指針を示す座標とすることで私自身の生き方を問う毎日です。
これらの人たちは専門課程を経ないで合唱団に入団し、そして私の演奏活動を通じて勉強した人たちです。
いってみれば最初に私がステージにあげた人たちです。
その人たちの動向が気になります。心配しているといっていいでしょう。
もう「離れてしまった」わけですから、関係がないことにしてほしいという気持ちがその人たちにあるかもしれないのですが、その活動の在り方に私は責任を感じます。
いい音楽仲間に囲まれての活動であることを願い、心配ながらもその成長を喜びたいと心から願う気持ちは今もって変わりません。

しかし、残念なことに憂慮する事態があることも事実です。
そのことがこの拙文を書かせるきっかけとなりました。

専門課程を経た「プロ」意識を持つ人たちとの「離れ」、<別れ>た関係はそれぞれの<良識>の上でよりよい関係が保たれています。
しかし、私が憂慮する事態の場合には<良識>がありません。
幼さ、分別の欠如が目立ちます。

我々の団の名前を利用するのはいいと思っています。しかし、どうもその利用に裏と表がある。
活動の方針はかつて私が唱えていたもので、それをそのままキャッチコピーとして使う。(その方針を貫けなかったのが団を離れるきっかけでした)
私たちの活動に協力して頂いていた場や演奏会場を追いかけるようにして、利用を働きかける。(経緯や現状など考慮するといったことはないようです)
合唱を通して活動する者として配慮を欠いた言動のあまりの幼さに驚くのですが、一心不乱に突き進もうとするその行動に、以前の面影はありません。

今は、音楽する者としての<誇り>、芸術に対する<謙虚な心>で、良識ある地道な活動を是非目指して欲しいと願うばかりです。

これからも「離れる」人がいるでしょう。
しかし、それを上回って新しく「出会い」を迎える人々がいます。
素敵な「出会い」であったと喜び合えるものにしたいと思います。
もし「離れる」ことがあったとしても、両者にとって最良の選択であった、と思える<別れ>になりたいと思うのです。

第79回('02/9/19)「団を離れた人たちのことについて」この項終わり。


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