No.641 '07/10/01

「宮沢賢治の世界 その一」が終わりました


昨日(9月30日)、京都公演(邦人合唱曲シリーズVol.13)【「宮沢賢治の世界 その一」】を終えました。

満席の会場。
若い方々から年輩の方々まで、層の広いお客様に来ていただけたことに感謝しております。
いつものようにCD録音を兼ねての演奏会、お客様には緊張をしいたこともあったかと思うのですが、本当にすばらしい雰囲気を作っていただきただただ嬉しく、また感謝でした。

このシリーズの演奏が私たちのCD制作の中心となっています。
ライブでの録音、これを基盤にして「CD」が作られてきました。
一曲目、鈴木憲夫氏の「永久ニ」はCD制作のための再録でした。
ただ、この曲が持つ「縄文の世界」、また宇宙的な悠久の時空を超える内容が「宮澤賢治」の世界とも通じると感じたことでの選曲であったことは確かです。
会場には憲夫氏もリハーサルからお聞き願い、CD化への実現を一層確かなものとなりました。熱望されていた曲でした。これで録音での「祈り三部作」が完結します。

リハの前半までは順調だったのですが、後半、少し変調を感じました。
私の体調です。
音楽に集中できないのではないかとの思いで、本番は椅子を用意しての「座っての指揮」となりました。
これまでにもやむを得ずの座っての指揮がありましたが、最近ではその必要も無い状態が続いていました。しかし、昨日はちょっと私にとっても驚きで、「初演」という大任を果たさなくてはならないこともあって椅子を用意していただくことにしました。
音楽に集中するには、「体力」「精神力」が必要ですね。
その基礎となるのは「筋力」でしょう。
指揮者は「筋力」がなければ!(笑)
私は決して「体育会系」ではありませんが、「運動なし」では生きていけない人種のようです。 幼い頃から「遊び」で育ってきた私(笑)、筋力と遊びで培ったリズムが私の音楽の特徴ではないかと思うのですが、その「筋力」が使えないと感じた時は辛い瞬間です。

終わってから「大丈夫ですか?」と言葉をかけて下さる方が多かったのですが、ご心配をおかけしたことに恐縮しながらもそのことによって「音楽」が思ったように伝わったかどうかだけが心配だった私です。
指揮をしながらの手応えは十分でした。
メンバーたちもいつもの本番のノリで「流石の演奏」を展開してくれました。
良き強き仲間達です。

トレーニングに励むことにしましょう。
気がつけばデスクワークが多くなっていて、運動ができなくなっていました。

「永久ニ」の演奏後、「宮沢賢治の世界 その一」です。

高田三郎氏、鈴木輝昭氏と続くわけですが、「高田三郎」の世界には以前から魅了されている私。日本語の美しさを私なりの表現で演奏したいと思っていました。取り上げた作品は一曲だけでしたが、これからは少しづつでも取り上げることができればと思っています。
鈴木輝昭氏の作品は氏の作品の中でも比較的解りやすい曲だと思うのですが、練習を通じてメンバーたちが面白がっていく過程は見ていて私が面白かったです。(笑)
確かに難しい音程、リズムなどありますが、惹きつけられる魅力もまたあります。
時代の象徴ともいえる氏の合唱作品。
経験したことはメンバーと共に喜びでした。

最後はメインの初演作、千原英喜「雨ニモマケズ」。
至って平易なスタイルによる作品です。しかし、中身は濃い。
ハーモニーづくり、言葉の発し方、アゴーギクの用い方、どれをとっても一級の作品でした。
「千原英喜」、底力の魅力をまた開示させ得る作品となったのではないでしょうか。
このシリーズ(「邦人合唱曲シリーズ」)は合唱曲の普及を念頭に選曲されています。
いわゆる、「現代曲」書法による過度の難解で難曲の選曲は避けるように心がけています。
(「現代曲」は別に企画されている「現代曲シリーズ」で演奏します)
多くの方々に聴いていただき、また演奏していただきたいと思うような選曲がこの「邦人曲シリーズ」です。

第一曲、「告別(1)」。つづく二曲目「告別(2)」は賢治の書いた長い「告別」を二つに分けての構成です。しかし音楽的には見事にその内容に添った音が紡がれています。
私は賢治の生き方を弟子に示す二曲目の音楽に涙することが多かったです。
音としては聞こえない、鳴らない「光でできたパイプオルガンを弾くがいい」、賢治の優しさ、励ましに涙してしまいます。
「千原英喜」サウンドがストレートに心に染み渡ります。
続く第3曲目「野の師父」は賢治のまたまた長い詩に依るのですが、楽曲はその中からの抜粋。しかし、全曲ア・カペラという構成に詩の言葉が浮き上がります。賢治の内面に迫る音楽としてはこれほどの書法はないでしょう。
農夫として生きようとする賢治の不安と渇望、一人の師父への畏敬の思いが賢治の祈りとして語られていきます。深く心を打つ祈りです。
その後突如、鳴り響く応援歌のごとき「雨ニモマケズ」。(第4曲目)
行進曲のように「前向きに」元気の良い「雨ニモマケズ」が立ち現れます。
なんと意表を突かれた音楽でしょう。
原文の重く、悲壮とも受けとられる賢治の自戒の祈り、それが元気よく「励まし」の音楽のように、明るく、そして力強く表現されるのです。
「東に病気の子供あれば行って看病してやり」からの一連の綴り、それらにも重さより美しさと明るさが優ります。
新しい「雨ニモマケズ」が生まれました。
多くの方々に唱って欲しい合唱曲がまた誕生しました。

演奏が終わり、沢山の方々がロビーに残って私を待っていてくれました。
有り難いことです。
「『雨ニモマケズ」』が唱いたいです。楽譜、早く出版して下さい」との興奮気味の「お願い」は私にとってなによりの嬉しい言葉でした。
きっと近々出版されるとは思うのですが、待ちわびる人たちには・・・・何とかなるのでしょうか?(笑)

第一回の「宮澤賢治」は終わりました。
来月はいよいよ「宮澤賢治」の第二回目。
会場は「いずみホール」へと移り、朗読、そして照明が加わっての「宮澤賢治の世界」です。
どうぞ、楽しみに!



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