第2回

「ハモル」声

前回からの続きです。
私が提唱し、実践している「ヴォーチェ・ディ・フィンテ」とか「「メッツォ・ファルソ」と呼んでいる発声を持ちうると一体どんな結果を産み出すのか。
今回はその発声に至った経緯とその結果としての効用を述べることにしましょう。
現状とその経緯
私が合唱を聴いて先ず驚いたのは、どこも(本当にです。我が国の合唱団は例外無くどこも)ハモっていなかったことです。しかしもう一つ驚くべきことに、そのハモっていない響きを全然意に介していないか、また恐ろしいことにそれを「ハモっている」と多くの人達が信じ込んでいたことです。これにはホントにビックリしました。
「ハモリ」とは物理の世界です。音の振動数に関わることです。響きを調和させること。すなわち、倍音を意識し、「うなり」を聴き合い、整えることなのです。
ハモらない原因、それは団員一人一人が「ハモル」ことの真の意味を理解していないというだけでなく、1.それぞれの発声が統一できていないこと。そして、2.教えられ、用いられている発声が19世紀から今世紀の始め頃のものに準拠する、いわゆるオペラのソロを歌うための発声法を用いているからです。
何故この発声が不適切なのか?
先ずこの発声の主たる目的が「力強くより大きな声」が出るようにと開発されたものだからです。大きなホールで歌うのに要求されることは隅々まで声がよく聞こえること。これは必要なことです。しかし問題はこのホールの広さなのです。2000人の人々に聴かせる大きな声。よく考えると異常なことです。
これでは特別な楽器(声帯と筋肉)を持っている人しか歌う資格はないということになってしまいます。現在も、訓練を受けてこれに近づけることを目指してレッスンなどが行われているのですが、それほど恵まれた条件を持っていない多くの人達は無理をすることとなり、響きが被さった暗い音色、そしてピッチの不安定、それにすぐ疲れるといった症状が出てくることになるわけです。
それともう一つ、この「より大きく」といったことを満たすためには「沢山の倍音」をもった声作りとならなければならないのですが、しかし「ハモル」ためには特定の倍音を強調しなければならない場合がありますし、またある声部では特定の倍音を極力抑えなければならないといったこともおこります。
これまでのように「ソロ」一本槍のようなアプローチ、それも人間の限界を越えるような指向の発声法ではなく、これからは新しい視点に立った、我々日本人にあった、無理のない、「ソロ」もでき「ハモル」こともできる発声を創り出していかなくてはならない時にきているのだと思います。 新しい発声法は、普通の人が「美しい声」で「よく響かす」ことのできるという発声法でなければなりません。それが私の提唱する「ヴォーチェ・ディ・フィンテ」・「メッツォ・ファルソ」なのです。

結果としての効用
私が目指す発声法の初期段階では、男声も女性も中性的な響きとなり、また細く乾いた音色に聞こえるかもしれません。そして息の音も普通よりは多く聞こえます。
これは発声の基本を「ファルセット」としているためです。(この重要なポイントである「ファルセット」の基本の説明はまた後日書くことにします。これがホントに重要なんです!)
この段階を経て私の求める「声」の領域に入ってきます。

その特徴は
1.声の立ち上がりが明確。
2.精確なピッチコントロールができる。
3.ヴィブラートのコントロールができる。
4.純正律の響きを作りだす基本ができる。
5.「独唱」と「合唱」の使い分けができる。
6.きめ細やかな感情の表現ができる。
この発声法は大きなホールで、多くの人達を唸らせる「パワフル」な指向ではありませんが(大ホールでも響きの良い場合は最良の条件を満たすことになるでしょう。)、客席数5.6百の中ホールや小ホールには最適の発声法だと確信します。
また、この技法を身に付けた後、様々な流派の発声にもスムーズに移行でき、発声のメカニズムがよく理解できるようになります。
勿論、合唱に持ちうるには最適です。

次回はいったん「発声法」から離れて(何度も言いますが、これは様々な角度から説明をこれからもしていくつもりです)音楽作りのポイントを指揮者の立場から伝授することにします。


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