第5回

「ファルセット」への道(2)

「ファルセット(頭声)」時の声帯の生理

Column
新しい発声法を公開、そして実践に踏み切ったのは今から10年前、1986年6月でした。大阪ハインリッヒ・シュッツ合唱団の団員育成のために「合唱教室」として開講したのがその始まりです。
私の本棚には何十冊という発声に関する本が並んでいます。
開講する以前は悩んでいました。理解したいことが山とある、しかしそれらの本では解決しませんでした。個人的な経験上の話や枝葉末節なことばかりで 根本的事項に触れるものは皆無でした。
あきらめかけているところに2冊の本とのめぐり会いです。
私の提唱する発声法は、その本に準拠しながら、それらに述べられている理論を実践によって発展させようとするものです。
後に、これらの2冊の本、そして私が参考にしている文献を明記します。

「『ファルセット』への道(1)」の続きです。
「ヴォーチェ・ディ・フィンテ」と「ファルセット」の声域(声区)を詳しく示しましょう。(男声は1オクターブ下での音域で同じ区分となります)

「胸声区」

「ヴォーチェ・ディ・フィンテ」
「ファルセット(頭声区)」

私たちが目指す「歌唱発声法」は「ヴォーチェ・ディ・フィンテ」によって達成されます。「ヴォーチェ・ディ・フィンテ」の声を「胸声区」「ファルセット(頭声区)」に広げていこうとするものです。
英語で'MIXED' VOICEとも呼ばれる「ヴォーチェ・ディ・フィンテ」、この声の特徴はこの呼び名が示すように「声がミックス」された、コーディネイトされたイメージとしてとらえると解りやすいでしょう。

練習法 その1

男声
ファの音(「ファルセット区」の始まり)から始めます。勿論Falsettoです。巧くファルセットが出るまで練習。一音一音丁寧に上に上がっていきます。
女声
「ヴォーチェ・ディ・フィンテ区」の下のファからファルセットの練習です。(ファ〜シの間で声のひっくり返る人をよく見かけますが、これは胸声の強い人にありがちです。)
徹底してファルセットの出し方を体で覚えます。(喉の状態だけではなく、体全体の正しい姿勢と、脱力、リラックスした状態を体に覚えさせます)
なぜファルセットなのか?それは以下の理由によります。
声帯は空気を吸うときに開き、発声するときに閉じます。
声帯の構造は、上から薄い粘膜上皮、声帯全体の形を変える中間層、そして一番深いところにある筋肉層の3層からなっています。
発声時の声帯はそのそれぞれの層の働きで、薄くなったり、厚くなったり、強く閉じたり、弱く閉じたりできます。
なかでも歌唱発声にとって大事なことは、この声帯がこれらの内喉頭筋と呼ばれる筋肉群の働きによって前後にひっぱたり、ゆるめられたりもするということでしょう。
胸声区の低い声を出す時は声帯は厚くなり、全体が振動しています。
ファルセット区の高い声を出すときには、声帯は薄く引き延ばされ、部分的に振動されます。
筋肉の縮められている状態から伸展によって出される高音への移行は困難です。
筋肉の伸展された状態から部分的に縮めるほうが容易ですし、実際的でもあります。
私たちの目指す美しい声は、声帯の最大限の伸展、そして同時に声帯内筋の最小限の緊張によって得られるのです。

次回は関連した事柄として、「声の大きさ」声量についてです。
人間の耳は素晴らしく、また不思議です。この不可思議な器官についてもふれてみたいと思います。
「発声法」の道のりはまだまだ続きます。末永いお付き合いをお願いします。


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