第8回

「ヴォーチェ・ディ・フィンテ」(2)

「ヴォーチェ・ディ・フィンテ」の声を発しているときの声帯はどんな風になっているのでしょう。
今回はこのことについて書いてみました。

声は、声帯という二枚のヒダの間を息が流れることで発する音の事ですね。この音を「声帯原音」と呼んでいます。(人によってはこの原理を説明するのに「おなら」を持ち出すことがあります。確かにその通りなのですが、説明を詳しくするにはチョット、イメージが・・・・。私は楽器に例えます)
この声帯原音が口や鼻で増幅され、様々な音色となって声に成るわけです。
楽器に例えればこの仕組みはオーボエの発音と同じです。オーボエは二枚のリードに息を当て、その振動によって音を出します。ファゴットもそうですね。これらの楽器奏者にとって大変なことは、そのリード作りにあり、音色や発音の違いはこのリードに左右されるのだそうです。厚いリード、薄いリード、振動している部分の長いもの、短いもの、そのリードが人間の声では「声帯」ということになるわけです。
「声帯」は一般的に「のど仏」と呼ばれている「甲状軟骨」の中にあります。そして「声帯」を閉じたり、伸ばしたり(張ったり)する働きのある後筋、横筋、側筋と呼ばれている筋肉群によってその形状を微妙に変化させ、調整します。また「声帯」自身も「内筋」と呼ばれる筋肉によって変化することができます。(この詳しい説明はまたの機会としましょう)
こうして人の声は様々な声を出すことができるのですね。
「人まね上手」は「発声上手」です。動物や様々な声、音を真似て出すことができるということは、「声帯」や口の中を自由に変化させることのできる柔軟さを持っているということですから。

「声を出す」という課題は、「声帯の張り具合」を変化させるということの問題に尽きます。
そして、その「張り」には二通りあって、その調整が「「ヴォーチェ・ディ・フィンテ」に大いに関係するというわけです。
二通りの方法とは、「声帯」を吊り下げたり、支えたりしている筋肉群の働きによって声帯を「伸張」(伸長)させる方法、そしてもう一つは声帯自体が持つ「内筋」を「収縮」させる方法です。
「伸張」と「収縮」。これが全てのカギです。

「胸声」は「収縮」が強い状態、「ファルセット」は「伸張」が強い状態、とは今までに説明をしてきたことですね。
そして、「ヴォーチェ・ディ・フィンテ」とは声帯の「伸張」された状態の中で「内筋」を「収縮」させようとする発声なのです。
一般的に行われたり、イメージされている声作りの方法はこの逆で、外筋、及び内筋の「収縮」力を強くすることによって「大きな声」を出そうとする偏りに陥っているように感じます。
完成された発声法として到達する所は同じかもしれないのですが、その方法は大きく異なっています。

今までに沢山の「発声法」の本が出版されました。私が知る限り、積極的に「伸張」の重要性を説き、その上に立って発声法を論じている本は二冊だけです。
その中の一冊は驚くような斬新さで、そして示唆にも富んでいる内容となっているのですが、ちょっと困ったことに記述の仕方が何か特別なこと、神憑り的なことのように書かれているため信憑性が疑われるのではないかという懸念があります。

我が国においてファルセットを積極的に評価し、実践を基本とする考え方はまだ少数派でしょう。
しかし、隆盛を極めたルネッサンス・バロック時代におこなわれていた発声法はこのファルセットの基本とその応用だと文献にも記載され、いわゆる「ベル・カント」と呼ばれる発声法もこの方法に依っていたのではないか、ということがここ20年ぐらい前から論文などで言われています。(この辺の事情についても後にご紹介しましょう)

約15ミリ(女性)か20ミリ(男性)の声帯。
この声帯の厚みや接触部分の長短を変化させながら人間は声を出します。
声楽発声は健康な声帯を要求します。健康な声帯作りが発声の目的です
声帯の動きは精神によって微妙に影響を受けます。
まだまだ未知の問題を抱えている「発声」であり、生理学上の「喉頭」ではありますが、積極的にこれらと付き合って行かなくてはなりません。
実践を通して理想を追い求めたいと思います。

私が実践する声作り「ヴォーチェ・ディ・フィンテ」:
声帯を「伸張」した状態で、二枚の声帯ヒダの接触部分を強めるための「収縮」を起こす。この相反する動き、微妙で高度な処理のテクニック、それが「ヴォーチェ・ディ・フィンテ」と呼ばれる発声法の機能です。

次回は「呼吸」と「リズム」についてです。


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