第21回('97/3/14)

感情表現について

コンピューターの声や、感情を押し殺した「声」のほうが私は好きだなぁと思われる方はどうぞこの文章は飛ばしていただいて結構だと思います。
ときどき私もその方が安らかになっていいだろうと思うことがあるものですから。(しかし、やはりそれはできないでいますが)。感情を伴うということは語る方も聞く方もエネルギーがいるんです。感情過多の語り口調に疲れるということはよく理解 できます。
まぁそういう問題もあるのですが、ここでは歌うことの感情表現について書きます。
環境音楽のような音楽ではなく、作曲家や、歌い手や奏者の感情を伝えるためにはどうしたらいいのだろうかいう問題です。
感情に関する言葉を列挙しましょうか。
「情熱」「激情」「悲喜」「ときめき」「胸躍る」「苦痛」「苦悩」「苦悶」「悦楽」「憂い」「平静」「愉悦」「歓喜」「狂気」「安堵」「悔悟」「焦心」「焦燥」「緊張」「恐怖」「畏怖」「怒り」「憤り」「驚き」「驚異」まだまだあるでしょう。
これらを先ず感じることから始めなければなりません。しかし、どうしてこれらの感情が湧いてくるかという問題はここでは扱いません。これは専門外ですし、そう簡単に述べられる問題ではありません。

上に列挙したような感情を表現するには以下のような特徴があることに気づきます。

  1. テンポ
  2. 音高と声量
  3. イントネーション
これらを巧みにコントロールすることによって、感情表現を際立たせることができるのです。
早いテンポは「怒り」「歓喜」ですね。それに反して「苦悶」「平静」などは遅いテンポを取ります。また「怒り」の声は大きくそして高いものです。低くて小さくなるのは「平静」です。
声のイントネーションやテンポ、そして声量などが激しく変化すると、それは高揚した感情「激情」「歓喜」「怒り」といったことを表す特徴だということができます。
これらの特徴を手中に納め、自在に用いればより直接的な感情表現ができるとことになります。
しかし、いつもこればかりだと聴いている方が疲れるのも事実。
そういうときは次の方法はどうでしょう。
テンポ、音高、声量はできるだけ変化させず、言葉のイントネーションだけを変える(つまり言葉によって強さを変化させる)のです。
顔の表情もあまり変えず、言葉だけが際立ちます。ちょっと不気味な感じも与えるかもしれませんが、それだけ聴いている人々の心に強く印象づけることにもなるというものです。
とにかく、感情表現は歌い手の、あるいは奏者の思いの強さだけでは表現できません。演奏テクニックが必要です。しかも聴き手にテクニックだと感じさせないテクニックでないといけないわけです。ここに演奏者の醍醐味が、そして面白さがあるのですね。

次回は「音の不思議」シリーズの最終回(といってもまたいずれ書くことになるとは思いますが)として、「音色」について書きます。

第21回「感情表現について」終わり


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