第23回('97/6/2)

曲を練習する前に

「音の不思議」と題して音に関する特徴を何回かに分けて説明をしてきました。
今回から当初の目的である<実践に即した>事柄に戻り、練習する上での参考にしていただければと思います。

合唱団の練習日、曲の練習を始める前に多くの団で<発声練習>と称するものが行われていると聞きます。
特に大学の合唱団では必ずといっていいほどこの<発声練習>が行われている筈です。
内容はさまざまです。
その団の伝統に従って、あるいはヴォイストレーナーの方々のメトードの違いによって方法は違っているようです。
<ストレッチ等の柔軟体操><呼吸の練習><五度音程内の音階練習と母音練習の組み合わせ><さらに広い音程による音階練習><分散和音の練習><表情の練習(顔の筋肉を動かして表情づくり)>など、工夫した練習がなされていますね。

このような<発声練習>の必要性は疑う余地のないものです。
「いつも新鮮に!」「マニュアル化しない!」という条件を備えていればの話ですが!

本当の話をします。
発声練習は大勢で、一同にできるものではありません。個々の課題は別々だからです
体操にしても、一つ一つの動きは筋肉を意識した神経の集中したものでなければなりませんし、呼吸とも綿密な関係にあります(息を止めて運動するものは少なく、自然な呼吸のリズムが必要です。吐く時は筋肉の収縮と関係があり、吸うときは筋肉の弛緩と関連します)。
声を出さないで行う<ブレス>の練習はちょっと恐いです。
実際の声に即したブレスでなければならないからです。
癖がついてしまっていて、ブレストと声が合わないで悩んでいる人を私は沢山見てきました。
これらを効果あるものとするためには、個々にあったテンポ、個々の集中度にあわせて行わなければなりません。
同じテンポ、そして同時進行での<発声練習>では目的は達成しにくくなるわけです。
音階練習などでも個々チェックしなければならないポイントが沢山あります、それをしないむやみな反復は、<害あって益無し>の可能性大だと言わなければなりません。

私の関係する合唱団では練習前の<発声練習>はありません。
いきなり曲の練習です。
<体を温める><フィンテの声に整える><筋肉を柔軟にする>ことは個々にまかせられています。これができるのも個々が個人レッスンを受けていて、そのノウハウを知っているからと言えますが、これが最良の方法だと今私は考えています。
練習場に来るまでの車内や、徒歩の中で筋肉をほぐしていくことはそんなに難しいことではありません、そして練習場に来ればハミングなどで<ファルセット>からの声出しです。これがフィンテづくりの基礎です。
そして大事なことは、この意識を通じて音楽する集中力が高まり、練習する準備が整うということなのです。

一般の合唱団や大学の合唱団では<発声>を個々にまかせるのは難しいですね。
では、どうすれば良いか?
基本的なことでは次のようなものでしょう。

  1. 例題を適時変える(マンネリ化を防ぐ)。
  2. 初心者には経験者が付き添う。(個別の課題をできるだけ見つけてあげる)
  3. ピアノ伴奏を工夫し、リズム、ハーモニーを変えてみる。(マンネリ化を防ぐだけでなく、声の音色を変えることにもつながりますし、リズム感の養成にもなります)
そして、私からの提案です。
次の二つの練習をお奨めします。
短期間で効果が現れると思います。

  1. 男女とも、最低音から最高音まで音階で練習。低いところは<胸声>、高音域では<ファルセット>を用います。注意する点は、低音域で無理をしないということ。無理矢理に低い声を出さないことです!そしてこの練習の目的は<胸声><ファルセット>にあるということですから積極的にそれらの声を出すようにして下さい。
  2. 男女それぞれ<声がチェンジする音>の周辺を集中して練習する。(女声では中音域のレミファソ。胸声を中心とするファルセットとの交互の練習です。男声は高音域のレミファソ。ファルセットを中心とする胸声との交互の練習。これがフィンテ作りのコツです。)
慣れるまでには少し時間がかかるかもしれませんが、一度試みてみることをすすめます。
きっと成果が上がると信じます。

もし質問等がありましたら、遠慮無くメールをください。
できるだけ回答していくつもりです。

第23回「曲を練習する前に」終わり


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