第30回('98/6/19)

ジョスカン・デ・プレ<アヴェ・マリア>1.

イギリスのジョン・ダンスタブルに始まった新しい響きはギョーム・デュファイ(1400頃〜1474)〔この時代の最も重要な作曲家とみなされている〕に代表される北フランス、フランドル、ネーデルランド出身の音楽達によって豊かに発展していくことになります。

では、<ポリフォニー音楽の実践>として、実際に曲を用いて演奏法を解説していきます。
用いる曲は盛期ルネッサンスの代表的作曲家のジョスカン・デ・プレ(1440頃〜1521)の<アヴェ・マリア>です。
この曲は彼の書法を示す代表的な曲でもあると同時に、盛期ルネッサンスの音楽書法の頂点を示すものでもあります。
それでは始めることにしましょう。

先ず、ソプラノが単独で4小節の旋律を歌い始めます。

譜例1


この後、二小節遅れてアルト(あるいはテノール)、さらに二小節遅れてテノールと続き、そのまた二小節遅れて2オクターブ低いバスが忠実に模倣します。

バスが模倣し始めてから一小節後、第二のメロディー(フレーズ)をソプラノが歌い始めます。

譜例2


これを最初と全く同じように各声部が二小節づつおくれて模倣します。

はじめのフレーズ(譜例1)は上昇型です。とくにソ、ドの4度の音程は特徴的であって丁寧に、そしてピッチを正しく純正に取らなければなりません。またMariaのriに当てられているレ、ミの二度音程は甘いピッチになりがちですので気を付けましょう。
二つ目のフレーズ(譜例2)は最初とは対象的に下降型を形作っています。
plenaのソ、ドの4度、そして最後のドに解決する前のシ(スィ)はピッチをどのように取るか思案のしどころです。つまり3度のシとして少し低めに取るか、導音として少し高く取るか、何度も試して歌ってみるのがいいですね。

ルネッサンス音楽で重要なのは、模倣を繰り広げる各声部はどれも<等しく重要>であると言うことです。リズムや声部書法の対比であってもそこには「調和」が最優先されます。
4声部における音色、声量、アクセント(ジョスカン・デ・プレの音楽は特に言葉の意味とアクセントが合致しています。)の「調和」なんですね。

この後のフレーズ、Dominus tecum は譜例1の変形、Virgo serena は譜例2の変形です。
実に美しい均整を保っている出だしではあります。
この後、この曲全体についても心憎い構造が用意され、ルネッサンス期の絵画のごとき美しい均整感を見ることになります。

ポリフォニー音楽での注意点は

1)各声部が独立し、横の流れとしての(*)メロディーラインを美しく仕上げることが大切です。

2)各声部のバランスを考えて演奏すること。(テクニックや音楽上での格差が無いこと)

3)縦の線(和音)を聞き取りながら和声(縦)と旋律(横)の調和を計ります。

* 言葉のアクセントを意識して歌います。また規則的なリズムの刻みと、それを外したシンコペーションなどはハッキリと区別しましょう。
歌いはじめは曖昧にならず明確に。
旋律線の<頂点>はどこか見つけましょう。
フレーズの終わりは極度のrit.にならず、自然なアゴーギク(緩急法)を心がけます。

「理想的な声質」
●ハーモニーの響きがバスを底辺とする三角形になるといいですね。

●バスは朗々と響く声。上の倍音を沢山含んだ声です。
●テノールはファルセットを主体とした柔らかい響き。倍音構成はバスの響きの中で
●アルトは理想的には男性アルト(カウンターテナー)が良いですね。芯のある輪郭のハッキリした声がいいです。
●ソプラノはビブラートが押さえられたまっすぐな声が必要。
オペラのソリストのような太い声ではなく、倍音もバスの中にすっぽりはまるような構成がいいです。バスと対立するような声質ではない方がいいと思いますね。

 

以下続きます。

 

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