第33回('98/7/15)

<アヴェ・マリア>最終回

冒頭から中間部までは男声、女声の掛け合いが魅力でした。
しかし、これは決して「対比」という後の時代(バロック)の概念ではまだありません。(「対比」はバロック時代の特徴です)
ルネッサンスは<統一>と<調和>が理想の音響でした。
ことさら必要以上に「対比」を強調することなく、全体のバランスを取りながら音響を統一していきます。
リコーダーやヴィオールのコンソートのように、同種の楽器による演奏が盛んなルネッサンス時代でした。「ア・カペラ」は合唱における理想の形態、そして音響でした。
このことを念頭に置いてお試しください。

さて第5部分です。
ここでの優美な旋律線は特筆です。
各声部が独立性を保ちながらもホモフォニックな音響で見事な均整を見せています。
これこそこの曲の魅力であり、ジョスカン・デ・プレの巧みな書法です。

アルトの2小節目、下ってくる滑らかな線での増4度音程とその解決。
テノールは穏やかながら上昇の高揚が見られます。
この内声の動きが魅力です。このフレーズ、次のフレーズでも繰り返されながら更に小節数を増して表現を強めます。(この部分がテノールにとってとても美味しいところですね! しかしアルトにとっては9度にわたる音程と後半部分での低い部分、そしてオクターブの跳躍は辛いものがあります。女声アルトでは悲しいところですね。やはりカウンターテナーでしょうか)

いよいよ最後の部分です。
前半部と同じ5度の模倣による女声、男声が続きます。
しかし、各声部での動きが一段と細かくなり、アクセントの位置も変え(シンコペーション)、調和を保って穏やかな中にも変化と緊迫感、切迫感を与えています。
ここでのアンサンブルは難しいところです。
歌い手としての技量が問われます。多くの練習がいる箇所ですね。

終わりに四声部が合わさります。(見事な構成、そして構築性です)
そこで我々は合唱の醍醐味を味わえる興味ある和音(響き)と向かい合うことになります。
3度音抜きのCの和音です。
根音と5度音だけです。つまり調を確定する3度が省かれているのです。
これはもう5度の響きを徹底して純粋にハモらせることができなければなりません。
純粋にハモれば、楽譜には書かれていない第3音が倍音の中にはっきりと聴き取ることができます。
これはもう合唱を経験した者たちが味わえる最高の喜びです。
皆さんも是非味わって下さい。

 

4回にわたって楽曲の解説を試みました。
ルネッサンス音楽の代表的作曲家ジョスカン・デ・プレの名曲<アヴェ・マリア>を取り上げました。

 

第33回「<アヴェ・マリア>最終回」終わり


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