第46回

呼吸法(3)「OCM式呼吸法(体操)」


この「合唱講座」のバックナンバー、No.9「呼吸とリズム」とNo.37「呼吸法」でも呼吸のことについて書きました。
しかし、基本的に私はこれまで「呼吸法」を避けてきました。
「発声」の中で一番大事なことなのですが、一番やっかいな問題でもあるのですね。
個々「体」の「個性」に大きく影響されるからです。

とはいうもののこの呼吸法、発声のなかでいろいろな課題があるなかでも80パーセント、いやそれ以上重要性を占めるものなんですね。(まぁそれだけにこれまでも慎重に扱ってきたのですが・・・)
「呼吸法」が上手くいけば、「発声」の問題はほぼ解決したも同じだと思ってもいいかもしれません。

で今回、一から「呼吸法」をもう一度見直し、確信的な「呼吸法」を作りましたので、ここに公開することにしました。
私の関係する合唱団ではすでにその応用が始まっています。
「大阪ハインリッヒ・シュッツ室内合唱団」でもその成果を認めることができました。毎回の練習にその「体操」が加わっています。

それではその「呼吸法」を順追って記します。

一)「首まわり」の運動
この運動をしているときは呼吸を止めず、ごく普通に吐いたり、吸ったりしているのが良いでしょう。

1)首を回します。(ゆっくりと)
◆6拍で一回りです。これを二回繰り返します。(一回目、伸ばされている部分に意識を持ちながら。二回目、収縮されている部分に意識をもって)
◆逆周りです。6拍で一回り、これも二回繰り返します。(一回目、伸ばされている部分に意識を持ちながら。二回目、収縮されている部分に意識をもって)

2)首を前後に動かします。(ゆっくりと)
◆前、正面、後ろ、正面(四拍で一サイクル。これを二回繰り返し)
◆後ろ、正面、前、正面(四拍で一サイクル。これを二回繰り返し)

3)首を左右に動かす。(ゆっくりと)
◆左、正面、右、正面(四拍で一サイクル。これを二回繰り返して)
◆右、正面、左、正面(四拍で一サイクル。これを二回繰り返して)


ニ)「胸郭」の運動

脊柱図



1)胸郭を左右に広げる運動です。
◆顔は真っ直ぐ正面を向き、肩を後ろに引いていきます。肩胛骨どうしをくっつけるように。胸郭を広げる運動です。(四拍)
◆ゆっくりと戻します。(四拍)
◆顔は真っ直ぐ正面を向いたまま、肩を前の方にすぼめるます。肩胛骨を広げ、胸を狭めます。(四拍)
◆ゆっくりと戻します(四拍) この一連の動き(後方へ、前方へ)を二回繰り返し。

2)胸郭を上下に広げる練習(肋骨間を広げる)
◆(吐きながら。口から吐きます)胸郭を狭める。胸椎を弛めることによって少し胸は前に縮みます。(四拍)
◆{吸いながら。鼻から吸います」もとに戻す。胸椎を伸ばしていきます。胸が立つ(上がる、張り出る)感じです。(四拍)
◆(更に吸いながら。鼻から吸います)頭を後ろへ倒しながらさらに胸郭(肋骨間)を広げます。胸が反り返る感じです。(四拍)
◆(吐きながら。口から吐きます)もとに戻します。(四拍。これでもとの正面に戻りました)

これで首、胸の運動は終わりです。


さて、これからがメインの運動、呼吸法へと入っていきます。

呼吸

呼吸には大きく分けて三種類の呼吸法があります。
「胸式呼吸」「肩式呼吸」「腹式呼吸」です。
歌唱発声で用いられる呼吸は「腹式呼吸」だと広く知られています。
「腹式呼吸」が「胸式呼吸」よりも良い理由は、吸い込む空気の量が多いこと、そして横隔膜を押し下げられる運動によって胸や喉まわりの力みが押さえられることです。
しかしながら実際の歌唱時には「腹式呼吸」を基本としながら、他の2つの呼吸法を加わえた総合的な「呼吸法」を用いるのが理想です。

「腹式呼吸」
「腹式呼吸」はこれまで「横隔膜」を中心としたものでしたが、「OCM式呼吸法」では「臍下丹田(せいかたんでん)呼吸」と呼ばれているものを用います。
「丹田呼吸」
「臍下丹田」は、握りこぶしひとつおへそから下がった所に位置します。

1)「臍下丹田呼吸」の練習
体をリラックスさせ(仰向けに寝て行うとよい)、手を丹田に添え、胸や肩の力を抜いて(これが重要)、丹田を凹ませながら口からゆっくりと息を吐いていきます。(最初はお腹に力みが生じない程度の浅さで)
次に息を吸う時は添えた手を軽く意 識しながら、鼻からゆっくり、丹田に深く空気を吸い込むようなイメージをもって膨らみを増していきます。(仰向けに寝ての練習では、丹田が膨らんで出っ張ってくるのを観察してみるのがよいでしょう)
丹田を中心とした胴体の、前、後、側が膨らむように入れるのがコツです。
その後、しばらく下腹部(丹田)を膨らませた状態を保ち(このとき、胸に余計な力みが生じてはいけません。拮抗筋によるバランスの良い、膨らませ状態の維持が重要です)、吐き始める時もこの状態を少し保ちながら吐いていき、あとは腹部の自然なしぼみによって静かに息を吐いていきます。

【注意】:息を吸う時はどうしても身体に力が入りがちなので肩や胸の力を抜きながら行うのが重要なポイントです。「上虚下実」という言葉があるのですが、これは上半身は力まず、下半身が充実しているという意味です。言い得て妙です。


2)呼吸練習での無声子音「S音」を用いた応用練習
(最初は仰向けで練習)
鼻からゆっくり息を吸い(肩や胸に力が入らないように数秒から10秒ぐらいかけて)、息を前歯の裏側に当てて、息を漏らしていくという感じで(「S音」)静かに口から吐いていく。
(スタートの数秒前か10秒ぐらい前からカウントダウン。「スタート」後も、カウントを続ける。吐く時間(20秒〜30秒)は徐々にゆっくり長く延ばしていくことを目標とします。)
(【注意】:息を吸う時も、吐く時も、決して力まないことが大切です。リラックスして息を吸い、そしてゆっくり、長い時間かけて吐くようにします。
苦しくなったらその時点でやめます。体を緊張させないことが重要です。押し止めるのではなく均衡を保ちながら動かしていきます。)

練習法とカウント
*吸う(5秒〜10秒)ー止める(2秒〜3秒)ー吐く(15秒、20秒〔そしてだんだん長く延ばしていく〕)

3)有声子音「Z音」を用いて練習
声帯の振動を感じながら吐いていくことを目的とします。(この吐くことが、発声することにつながるわけです)しかし、声帯を強く鳴らすのではなく前歯の振動をより意識するようにします。
前歯を振動させる正しいZ音は声帯の負担を減らします。
Z音は、「S音を出す時」と「歌唱時の正しい声を出す時」の中間の音です。
2)の練習と同じようにカウントを取りながら息のコントロール。
*吸う(5秒〜10秒)ー止める(2秒〜3秒)ー吐く(15秒、20秒〔そしてだんだん長く延ばしていく〕)



【重要】
吸気のときは丹田に集中です。これまでの横隔膜を張り出す方法ではなく丹田から動き始める(膨らむ)ことに注意して下さい。吸うこと=丹田の動きです。勿論その時に上半身に力みが生じてはなりません。
呼気のときは発声の状態と同じです。声帯の振動を感じながら(Z音)、息の当たるところを意識しながら吐いていきます。そして呼気の時間が長ければ長いほど歌唱の時に役立ちます。息が長く保てますし、フレーズも余裕をもって歌うことができるというわけです。
呼気が震えず、力強く、そしてしなやかさをもって長く保てるようになることがこの「呼吸法」の目的です。



呼吸法のバリエーション運動(A)
時間のバリエーション
四分音符=60ぐらいで練習。<1><2>と丹田を凹(へこ)ませながら息を吐ききります。
<3>で一瞬のうちに筋肉をゆるめ、息を入れます。(吸うのではなく、自然に入ってきます)
吐く拍数を増やしていきます。
吸う拍は常に一拍です。(<1><2><3>と吐き、<4>で瞬間に息を入れる。<1><2><3><4>と吐き、<5>で瞬間に息を入れる、と続きます。)
吐くのは口からです。吸うときは鼻と口からです。(健康上、鼻で吸った方が雑菌を防いだり、空気の温度調節ができます)

【特別】呼吸法のバリエーション運動(B)
「丹田を脹らませて(凸)息を吐く練習」
丹田を凹(へこ)ませて息を吐く練習は【自然な呼吸(順式呼吸)】と呼びます。
その動きの反対、「丹田を脹らませて(凸)息を吐く練習」は【コントロールされた呼吸(逆式呼吸)】と呼ばれます。
「臍下丹田呼吸」の練習で行った丹田を膨らませながら<息を吸う>運動を、<息を吐く>時に行います。
息を吐きながら、丹田を膨らませるわけです。(ここでも身体に力が入りがちです。力まずに行うのが重要なポイントです)
そしてその後の<息を吸う>は、膨らませた丹田の緊張を解くだけです。自然に空気が身体の脱力とともに入ってきます。この吸気は深くありません。また意識的に強く吸って身体をこわばらせないように慎重に行わなければなりません。
この動きによる呼気はあらゆる吸気の深さでも使うことができ、横隔膜の下がり方が強大になります。したがって、腹、下腹部が全体にわたって膨らむことを知覚することができるはずです。
この呼吸は力強い声を出したいとき、(強い)声を維持させたいとき、クレッシェンドをするとき、高音域を歌うときなどに使用すると効果的です。
また、スタッカートやアクセントはこの呼吸法で行った方が正確かつ律動的です。
(【注意】:この呼吸法ができない方は無理にする必要はないでしょう。
基本的な呼吸(【自然な呼吸】)に慣れ、経験を積むことによってできるようになると思います。)



「真」なるものは単純なものであると信じます。
複雑でなく、短く、そして誰にでもできるというものの中にこそ最良の成果を生み出す「真」があると信じます。
集中力を維持できる時間というのが大切です。
上に書いた体操を一通りする時間は15分ぐらいでしょう。
体を動かすこと、それは継続可能なものでなければなりません。応用的な運動は加えてもいいのですが、長くならないように注意しながら、先ずは上の運動を、短く、集中力をもって、毎回されることをお勧めします。

第46回「呼吸法(3)「OCM式呼吸法(体操)」」終わり(この項終わり)


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