第53回

合唱団員になる為のアドバイス


(若干の補筆07/11/22)
この「合唱講座」ではメンタルな問題は出来る限り省いていこうという方針です。
先ずは「テクニカル」な部分を取り出し、それを解明して練習する。それが「巧くなる」ための常套な取り組み方です。
しかし本質を知ることに更に積極的な方々にはもう一歩踏み込んで、記述の中から背面にある精神的なことに個々気づいていただければ「音楽」に最も近づける道になるのではないかと思います。
音楽にあっては精神的なこととテクニカルなことは密接に関連しており、それら両面から考えなければなりません。
思考する上で「心技のバランスを保つ」、これは最も大切なことです。
(しかしながらメンタルなことを書くことには勇気がいります。人間の数だけ「精神」があるわけですから、その領域に踏み込むことは大きな緊張感を生じさせるということを覚悟しなければなりません。私の経験から、メンタルな作用は何よりも大切で重要なこと、との確信なのですが人に対しては〔確信的〕なことだけに極度に慎重になってしまいます。)

今回はNo.50「合唱(音楽)の《核》」の続編として「合唱団員としてのアドバイス」と題し、何を目的とすればより合唱を楽しむことができるかについて少しメンタルな部分を書こうと思います。

合唱を体験したい!
そう思ったとき、仲間を集っていきなりグループを作る、という快挙を成しても良いわけですが、通常は活動している合唱団を探して入団をする、ということから始まります。
で、練習場へと向かうわけですが、ここで「ちょっと待って下さい」・・・ですね。

合唱の世界へ入るには「大合唱」の路線を目指すか、「小合唱」(室内合唱)を目指すか?またはソリストたちによる小アンサンブル(声部数による重唱)かを先ずハッキリとしていなければなりません。
これらを最初に目的意識として持つわけです。
それでは今回の本題です。
さまざまな合唱の形の「特徴」を書き、それらの長所短所を解って頂いて合唱団員として何を努力しなければならないか私見を書きます。

■「大合唱」
純粋なハーモニー、精確なアンサンブルは残念ながら望めません。
反面、大音響は楽しめます。また力強い迫力あるサウンド、大合唱による豊潤な響きは格別の良さがありますね。
大人数ですので個人としては1/○○○の役目、となります。つまり「個人」は聞き手にはダイレクトに伝わりません。全体は全体の印象でしかありません。個人色は出ない、出せないと思った方がよいでしょう。個人の力量が演奏に反映されているという認識度は低いです。評価は個人には及びません。
そして演奏に対する充実度はあくまでも全体としてのもので、個人的な感動、充実度というものは個人個人における「大合唱」の捉え方次第ということですね。
悪く言えば歌い手が「独りよがり」になる可能性、無きにしも非ずです。
通常のコンサートでは、有名な歴史的大曲を歌う、これを目的とすることが多いようです。

■「室内合唱」
「室内合唱」での各パートの人数を規定するのは難しいです。一般的には3人以上、多くても8人まででしょうか。3人づつだと混声四部で12名ですね。8人づつだと32名。
総勢12〜32名という幅ですね。
では各パート2人づつではどうなのか?
これは「アンサンブル」というジャンルとして認識する、それが私の中での規定です。
「アンサンブル〔ensemble〕」を訳せば少人数の「合唱・合唱」ということで混乱するかもしれませんが、後で書く「重唱」の拡大型として私は捉えます。

「室内合唱」では《純粋なハーモニー》が可能です(人数が多くなればなるほど困難性も増しますが)。《精緻なアンサンブル》(ここでは合わせの技術、まとまりの技術として)も極度の高度さが追求可能です。
それらの達成は「合唱」としての最高の魅力となります。
「大合唱」に比べ、個人的に声楽家・音楽家としての力量がより問われます。
そして他のメンバー、他の声部との「合わせ」能力も同時に最大限に問われます。
「個人」の能力に依存すること大です。しかし相反するようですが個人の出色に関してはより慎重でなければなりません。
「個」と「全体」の調和、これが何よりも重要なポイントです。

■「重唱」
歌い手の力量がダイレクトに反映するスタイルですね。
個人の力量が「室内合唱団員」よりも大きく問われます。
《個性》も大切です。
しかし、これらの条件は厳しいものではありますが、演奏者として、歌い手として最高の音楽の楽しみ方です。「合わせもの」はこれに尽きますね。
アンサンブルの妙味、またハーモニーを様々に作れるといった醍醐味があります。

ただこのスタイル、魅力ある個性の集団が作る「美」と見るか、楽曲の魅力を発揮するためにこのスタイルを選んだと見るか、それによって味わい方も変わってくることでしょう。
「個」か、「楽曲」か。
当然ながら、これも「個」と「曲」のバランスだ、と私は思っています。

さて、大まかには以上のようなことが言えると思うのですが、合唱を体験したいと思われる方はまずこれらについて「自身の目的」は何かと考えておきたいところです。
一般的に言うならば、初心者は「大合唱」、中級者は「室内合唱」、上級者は「重唱」でしょうか。

初心者は先ず「歌うこと」から始めなければなりません。個人の力量をさほど問われないで有名な大合唱曲(大抵オーケストラ付き)が歌える。このスタイルは歴史的に見ても一大文化を築き上げました。アマチュア合唱の台頭です。(これを私は決して蔑視的に見ているわけではないのですが、その弊害もまた知っておくべきだろうとの思いは強くあります)
とにかく、好きな曲を歌う、これが始まりです。
中級者は「室内合唱」を是非とも体験すべきでしょう。合唱の奥深さ、そしてそれを達成するための困難さをも。
アマチュア集団から専門家集団に至るまで様々な「団」が存在します。
現代における合唱活動の「核」がここにあります。
〔多数〕のなかの〔私〕。〔私〕と対峙する世界がここに始まるでしょう。
上級者は何と言ってもアンサンブルの魅力の極致ともいえる「重唱」を試みるべきです。
各パートが一名づつ。何と自由に、そして精緻な世界へと誘ってくれることか。
「ソロ」と「合わせ」を同時に楽しめる。ダイレクトな感覚で楽しめる。
作品そのものに一番近づけるのはこの「重唱」というスタイルです。
積極的に、強く、パート一名づつによって歌うことを勧めたいですね。

そして更に押し進めて、私はお勧めしましょう。
それぞれが全てのスタイルを体験することを。
合唱の喜びが溢れます。


長い前置きになりました。実はこれ以下が私のアドバイスとなります。
合唱には様々なスタイルがあります。しかし、合唱を作り出すメンバーとして共通の課題があります。
それは
1)練習すること。(当たり前すぎることなのですが、これがだんだんと出来なくなっていく過程を私は多く見てきました。とにかく練習をしないことには何ごとも進みません。練習をするためには音楽が好きであること、練習目的がハッキリしていること、練習そのものを好きになることが必要ですね)
2)他のメンバーの歌を聴くこと(これも当たり前のことなのですが、意外とこれが出来ない人が多いです。これなくしてハーモニー、アンサンブルはできません)
3)自分を過信しすぎないこと(自身の欠点を知ることが困難になります)
4)他を受け入れること(言い換えれば他のメンバーを信用すること)

これらをまとめれば三つの重要なこと、となります。
一)中心は「音楽」です。
二)歌い手同士、互いの「コミュニケーション」を図らなくてはなりません。
言葉少なくてもいいのです。(言葉多くても真のコミュニケーションを得るとは限りません)
目を合わせるだけで言葉以上のコミュニケーションを得ることだってあります。
三)他の存在を感じる。(《存在》というキーワード、これがアンサンブル、ハーモニー作りにおける秘訣です。個人的になりやすい「音楽」の世界です。積極的に他の音楽と係わっていかなくては「アンサンブル」はできないでしょう)

【一)中心は「音楽」です。】は音楽によって集っている。集わされているということ。
音楽が全ての中心、元、それが拠り所。
なにか問題が起こった時、悩みが生じた時、この一点に立ち返ればいいのです。
「音楽」に依って集まっているのだと。

歌い手としての要求度は閉鎖性の強い活動(同好会的活動)
から
開放性の強い活動(演奏活動を主とする活動)
へと、その強さが増していくことでしょう。
「個」と「集団」との拮抗、確執。その差を両者(あるいは一方)が埋める努力をしなければならなくなる状況が起こり得る、ということだけはしっかりと意識しておきましょう。
どうか選択したことが「後悔」となりませんように。
どうか両者にとって気まずい思いになりませんように。
せっかく好きになった(体験して見たいと思った)合唱音楽が嫌いに(嫌に)なることだけは避けたいですね。

これが私の「合唱団員になる為のアドバイス」です。



第53回「合唱団員になる為のアドバイス」この項終わり


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