第58回

「臍下丹田(せいかたんでん)呼吸」〔補遺〕


【冊子「OCM歌唱発声法」(’08年改訂版)の発刊にあたり付け足された項目です。補遺としてお読み下さい。】

強く大きく、そして遠くへ飛ばそうと胸を高く上げ、呼気圧を強くして発声している様子に不自然さを覚えたのが発声を考えるきっかけでした。
顔がこわばり、上半身も力みがち。これは胸部よる〔呼気圧上げ〕が原因で起こる声帯収縮(声帯周りの筋肉の圧迫)を緩和するために、無理矢理喉頭を下げようとする運動によって引き起こされるものです。
旧来の「腹式呼吸」と言われていたものは実は横隔膜を中心とするもの。
「りきみ声」「そばなり声」がその特徴だと言われていました。(上記がその例)
最近では「腹式呼吸」は「横隔膜」ではなく、「丹田」を中心としたものだと認識され、その呼吸法が主流になってきています。
もちろん呼吸では大きくどちらも「横隔膜」が関与するわけですが、新しい「腹式呼吸」(すなわち「丹田呼吸」)は「横隔膜」を直接動かそうとするのではなく、「丹田」を中心にした動きによって、より強く、かつ合理的に、直接にではなく二次的に「横隔膜」を働かせようとする方法です。

この「OCM歌唱発声法」では勢い、これまでの呼吸法を是正し「丹田呼吸」の妥当性を示すために<吸気>に重きを置いていた感があります。
(吸う時、どの筋肉を意識し、どう動かすかという運動の特徴が説明しやすく、また理解もされやすいとの思いからです)

しかし空気を吸う、つまり<吸気>は歌唱においては〔ブレス〕です。
〔ブレス〕も大切ですが歌唱で大事なのは空気を吐く、つまり<呼気>ですね。
<呼気>は直接発声と関わります。<呼気>は声を発するという重要な役目、いや、呼吸の最も中心なる核心の動きです。

DVD「OCM歌唱発声法」でも丹田呼吸の「吸う」時のお腹の動きは示しているのですが、「吐く」時の動きと説明は詳しくしていませんでした。
ここにその解説をして「呼吸法」の補遺とし、完結させたいと思います。

「丹田」はヘソの下、握り拳一つ分のところ。
「丹田」の中心は胴体にあるわけですが、一点ではなくその周辺ということになります。
その場所に「空気袋(丹田袋)」があるとイメージして空気を吸うというのが「丹田呼吸」ですね。
風船のイメージでしょうか。
この風船、下(しも)ぶくれに近い形で膨らむのが良いでしょう。
膨らんだときに(吸い終わった時)それを蓄え・維持しなければならないのですが、実はこの時が一番大切な瞬間です。
どう膨らみを維持するか?なんですね。(息を逃さないか、です)
息を吹き込んだ「吹き口」を閉じなければなりません。
空気が逃げないために「吹き口」をどのように塞ぐか、ですね。
風船ならば指で押さえればいいです。またそれを結んで塞ぐこともできます。
しかし人間ではどうすればいいのでしょうか?
息を詰めて止めようとしますがそれではダメなのです。
「息を詰めて」止めてはいけません。
(喉頭の下あたりで詰める、それが最も良くありません。〔横隔膜呼吸ではそうなりがちです〕)

「胸式呼吸」(収縮型)

良い止め方とは・・・・。
膨らんだ風船(と例えておきましょうか)の「吹き出し口」が喉頭下ではなく、「みぞおち」付近にあると想定し、空気が逃げないように「吹き出し口」への圧力を風船の中の圧力と同じにして止めるのです。(お解り頂けますか?)
膨らんだ袋を早く萎ませないようにするために「吹き出し口」に向かって下へ、横へ、後ろへと広げていって圧力を高め、その〔拮抗〕によって萎みを制御しようとするわけです。(この運動の特徴から、これを「拡張型」と呼ぶことにします)
うまくいったときは、胸が極端に上がらずまた厚くならず、そして次の事が最も重要なのですが《喉(喉頭)が少し下がり、楽になって、開きます》(喉頭への無駄な圧力がかかりません)。
胸郭も喉頭も楽に保てる、ということになります。

「丹田呼吸」(拡張型)

さてこの「吹き口」、発声の時は空気を外に出す「吹き出し口」となります。
空気をどのように出すか。どのような空気の流れをつくる「吹き出し口」とするか。
これが発声に大いに関係します。

「吹き出し口」の上に延長したところに「声帯」があると想像して下さい。
強くて声量があり、遠くへ飛び、ロングトーンが可能な声というのはこの「吹き出し口」と「声帯」の関係から生まれます。

「吹き出し口」から出る空気の圧力が高くなればなるほど勢いよく遠くまで飛んでいくことができます。
風船を力強く押せば、空気は強くそして速く外に出ていくことは想像していただけると思います。(口を細く小さく作ればさらに強く空気は流れます)
声も一緒で、如何に「丹田」の空気溜め袋の圧力を維持し、出口の圧力を高めながら、空気を送り出すか、これにかかっています。
丹田付近の空気溜めを早く萎まさず、長く維持し、出来るだけ高圧力を保ちながら効率よく「吹き出し口」から空気を「声帯」に送る。このイメージなのですね。

想像上の「丹田袋(タマネギ型)」の「吹き出し口」から力強い息が流れれば、待ち受ける「声帯」は声門の収縮力を強め、「芯のある声」として原音を作り出します。

それを拡大し、色としての響きを出すのは次なる共鳴腔の課題となるのですが、とにかく、声楽発声にとって「丹田袋(タマネギ型)」とその出口である「吹き出し口」の関係を想像することが最重要なのです。

空気の入った「丹田袋」の維持の方法。
それは萎めていこうとする「収縮型」<押し出し>ではなく、広げていこうとする「拡張型」<バランス(均衡)押し出し>による方法が最良です。
(「拮抗」という運動性がより強いエネルギーを作り出します。筋肉の生理にも適う方法です)

「呼吸法」、この改善によってもたらされるものは想像以上に大きいと確信しています。
発声は「呼吸法」に始まって「呼吸法」で終わる。
難しい課題、そして問題でもあるのですが、より良き「声づくり」のために一歩一歩解明していきたいと思っています。

第58回「「臍下丹田(せいかたんでん)呼吸」〔補遺〕」(この項終わり)


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