No.602 '05/12/01

「東京定期公演」裏話(笑)〈でも少しまじめ〉


「東京定期公演」が終わり、いろいろな感想も入ってきているようです。
嬉しく思っています。
演奏は一方通行でなく、聴衆への投げかけ、一種のコミュニケーションだと思っているものですから感想を頂けるのは嬉しいです。
できるだけ読み聞きさせていただきながらどんな風に受け取られたのか、感じられたのかを知り、今後の演奏の参考にさせていただこうと思っています。

しかし、あまりに事実との隔たりに笑ったり、ニヤニヤすることもあり、これは正直、皆さんに裏側を明らかにして参考にしていただいてもいいのではないかと思うこともあるのですね。
今回、木下牧子さんの「ティオの夜の旅」の感想が結構受けました(おもしろかった)ので、それをきっかけとして全曲への私の感想、思い、エピソードなどを書くことにします。

先ずは第一曲目に演奏した千原英喜さんの『弦楽のためのシンフォニア第3番「星乃音取(ほしのねとり)」』なのですが、不覚にも私、泣きながらの指揮でした。
できれば感情過多に陥らずに演奏したいと思う私なのですが、各楽章のいくつかの箇所で目頭が熱くなり、涙を流すという事態になってしまいました。(笑)
フレーズを歌い、次のフレーズに向かうべくアウフタクトを振ろうとしたときドッと溢れてくるものがあったんですね。
メロディに泣き、ハーモニーに感じ、「SCO」の演奏に涙するわけです。
千原さんの響きの世界が私の心の響きと共振します。
一種の寂寥感を伴いながら、熱く広がっていこうとする響き、もう感無量の響きが私の中を満たしていました。

二曲目、シュッツの作品。
私たちの原点であるシュッツ。シュッツを歌うと自然な息づかいを取り戻すことができます。
シュッツでハモることで、合唱団のハモりを確かめることができます。
虚飾を取り去る発声が立ち上がります。
シュッツを演奏する、それは音楽に集中し、ハーモニーに浸り、声に耳傾ける至福の時の流れです。
東京の皆さんに新しい「シュッツ・サウンドの魅力」を知っていただきたいとの私の思いでした。

さて、第三曲目の鈴木憲夫さんの無伴奏混声合唱のための「般若心経」
この日の関心作だったと思います。
多くの方々からの反応が一番あった曲でした。
親しまれたお経「般若心経」がどのような曲として仕上がっているのか?
興味津々だったのだと思われます。
さぞいろいろと想像されていたのでしょう。
しかし、その曲は親しみのある、そして心に迫ってくるハーモニーとして聞こえてきたわけです。
それは先ず様式への驚き、そしてそれがだんだんと身にしみいってくるといったプロセス、感じ方ではなかったかと思われます。
楽譜の出版を心待ちにしている、といった意見が多かったです。
キリスト教音楽を主としている私。
私の心の中には意外にも(でもないですが)仏教の心にも通じるものがあるということでしょう。
実は、この曲でも私、涙して棒を振っていました。(笑)

さてさて、いよいよ木下牧子さんの混声合唱組曲「ティオの夜の旅」です。
「練習できていないのでは」&「サラッと演奏しすぎ」との感想が多かったようです。
なるほどと私は納得。
さぞ、このような演奏ではなかったのでしょうね。今までお聴きになっていたのは。
もっと色濃い演奏だったのでしょう。
しかし、「練習量が少なかったのでは」にはちょっと驚きました。
実は実質的に一番多かったと思います。
いや、私としては一番この曲の表現法に時間を割きました。(他の曲は時間がかけられなかったという諸事情の結果もあったのですが)
私はこの種の曲でのアプローチの仕方を決めています。
以下の項目です。
1)楽譜に書かれているものは作曲家の意図を汲み取って忠実に再現する。
2)楽譜に書かれいないものは極力しない!
3)ピッチを正しく。
4)ハ−モニ−を純粋に(美しく、バランスよく)
ですね。
それに加えて、どの項目よりも優先的となる「言葉」を明晰にする、です。
<シンプルが一番>、そう思う私です。
いろいろな演奏があっていい。でも私はちょっと偏ってしまったかもしれない演奏を、少し楽譜を基本にして戻してみたいと思っているのだと思います。

結果、当日の演奏となりました。
感想はさまざま、でもできれば私の意図も組み入れた感想を、と願う私です。
さぞ、聞き慣れないものだったでしょう。
しかし、それが私なりのアプローチ、「楽譜に、作品に忠実」を目指した演奏でした。
木下牧子さんが演奏会後私の楽屋にお見えになりました。少し風邪気味だと仰っていました。(お風邪と併せて、締め切りが近づいている作曲のためもあってと、勝手に私が推測したのですが)
レセプションは失礼したいとのご挨拶。そして演奏の感想をお聴かせいただきました。(喜んでいただきました、がその詳しい中身はないしょです(笑))

さあ、終曲の千原英喜さんの混声合唱のための「ラプソディー・イン・チカマツ」。
これ当日のメイン曲。そしてお客さんの反応もメインでした。(笑)
やりがいのある曲です!
もんくなく楽しいです。
しかも「人生」を語る内容。
もうしびれます。
鳴り物あり、表現の幅も要求されます。
正直、今回はまだまだの内容(というか、私が納得できていないのですね)。
全集を出すための録音ではもっと私のイメージが具現化されていると思います。 是非、それを楽しみしていただきたいと思います。
でも、曲の持つ面白さは少しは出せたのではないかと思っています。
それはひとえに作曲家の千原さんの作品が素敵だからです。
もっともっと練った演奏をしてみたいですね。
近松の世界、もっと奥深いものだと思っています。

このページのおまけです。(笑)(失礼かなぁ?)
レセプションの後、皆で二次会です。
鈴木憲夫さんも千原英喜さんも参加してくださいました。盛り上がって楽しかったです。
「もんじゃ焼き」に行ったのですが、千原さんがなんと皆のために焼いてくださるという一シーンがあったんですね。
あまりの見慣れない姿に感激。写真に撮ってしまいました。
これ格別美味しかったです。(笑)


下の写真私の秘蔵ものでしょう。(笑)



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