楽器ミュージアム


楽器ミュージアム2回目は、ヴァイオリン 森田玲子がお届けします。

”ヴァイオリン”という楽器について書こうとしたのですが、あまりにも書くことが多くなり、私の力ではうまくまとめられそうにないので、どなたか他の方にお譲りすることにして、私は、”音”について少しお話してみようと思います。

 みなさんは、こんな話をご存知ですか?
ロシアのアウワァー門下から出た、沢山のすばらしいヴァイオリン弾きの中で、独特な太く美しい音で有名だった、エルマンという人がいました。
エルマンは、美しい音を自在に創り、天衣無縫に弾くことで有名なソリストでしたので、誰とクァルテットをしても曲が一緒に終わりませんでした。
つまり、合わないわけです。
ある日も、セカンドヴァイオリン、ビオラ、チェロパート達が、汗だくでエルマンを追ったので、ちょっとしたスポーツをしたほど、疲れてしまいました。
やっと終わると、エルマンは、「ああ、やっぱりみんながちゃんと弾けば、合うんだよ」とすましていたそうです。エルマンはこんな風な、ゆかいな人物でした。

 それに対して、カール・フレッシュという人をみなさんはご存知でしょうか。
ヴァイオリンを習っている者に、知らない人はいないと思うのですが、一時はヴァイオリンの教則本、ソナタなどのどの楽譜も彼の監修つきで、しかもその解釈がすべて伝統的なものとは反対でした。
たとえば、ボーイングの下げ弓だったところは上げ弓にというように。
とにかくフレッシュは最高のインテリで、原稿も書けば講演もし、出版社や主任教授をしていたカーチス音楽院ではとてもあがめられていた人でした。

 ある日、あの芸術家肌のエルマンの家に、まるで正反対の性格であるフレッシュが やって来ました。
そして、しばらく話をした後、エルマンに、「ミッシャ。音とは何か。君は音をどう定義するかね。」と質問したのです。これは2〜3時間は議論が続くのかと、同じ所に居合わせた仲間達は首をすくめました。
「音?」 エルマンは答えました。
「そりゃー君のもってないものさ!」

 私は、この話を読んだ時、今まで胸につかえていたものが、すぅっと消えて何かと てもすっきりした気分になったのを覚えています。
それからは、”音”を作るのが好きになりそして楽しくなりました。
”音”を作るには、楽器本来の持っている音色(銘器とよばれるストラディバリ、アマティ、ガルネリなどもそれぞれ違った音色を持っていますよね)も重要な要因の一つですが、ボーイング、ヴィヴラートのテクニックも、大変重要な役割をもっています。

何時間も、何週間もいろいろ悩んで作った”音”でも、本番のステージ上で「やっぱ りこういう音にしてみよう」とパッと変えてみたりすることもあります。”音”を自 由に操れることがすなわち本当のテクニックなのでしょうね。

 皆さんは、ヴァイオリンのどんな音が好きですか?
私は、これからも、”森田玲子の音”にこだわって演奏を続けたいと思います。
例会などでの私の”音”について皆様の忌憚ないご批評をお待ちしています。

【ヴァイオリンの項  終わり】


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