
『終着駅まで〜南海高野線〜 』(1999/08/03)
普段,電車をはじめとする乗り物を利用するとき,たいていは途中で乗って,途中で降りて終点まで行く機会はなかなかありません。僕は時々無性に,終いまで乗ってみたい衝動に駆られるのです。(危ないかな・・・)別に人生に疲れているとか,出社拒否になっているわけではなく,「○○方面××行き」の「××」を見てみたくなるのです。
8月1日の午後,彼女と待ち合わせをした時,特に行き先を決めていなかったこともあって,南海高野線の終点の高野山に行くことにしました。
大学のころよく南海高野線を利用しましたが,終点の高野山に行ったことは一度もありませんでした。無性に行きたくなったわけです。(^^)
午後3時,難波発の急行に乗り込みました。空いている席を探すうち,折りたたみ自転車やたくさんのリュックが置いてあってそこだけ数人分座席が空いている場所がありました。どうやら外国人旅行者の荷物のようで,彼と目配せして座らせてもらうことになりました。
見慣れた光景を抜けると,どんどん緑が目に見えて増えてきます。駅に停まる度に,開いた扉から入ってくる空気に緑の香りが増して来るのがわかります。駅舎も木造へと変わっていき,長いトンネルを抜けるとやがて列車は橋本駅に。そこからは各駅停車に変わりました。
線路はここから単線になり,紀ノ川の上流を横切り,やがて電車は勾配のある山間部へ向かっていきました。切り立った山肌に沿ってゆっくり,ゆっくり電車が上っていきます。まさに登山列車の様相です。
路線図を見て話していた僕らに,隣の外国人旅行者が「今、どの辺ですか?」と話しかけてきました。
彼はシュトゥットゥガルト在住のドイツ人で、今、日本に着いたばかりで高野山に向かっているとのこと。(なかなか渋いお人だ)来日は4度目で、今回は2週間の休みを取って遊びに来たそうです。
「今日はどこかに泊まるのかい?」と聞かれて「いや、今日中には帰る」と言ったら、「そりゃ大変だ」といわれてしまいました。
そりゃそうです。電車の終点「極楽橋」には4時半過ぎに着くんですから。
S字に曲がったトンネルを幾つか抜けると,切り立った谷の行き止まりに終着の一歩手前の駅「極楽橋」がありました。降りてみると吹き抜ける風はもう,緑一色でした。ここでケーブルに乗り換え,いよいよ終着の「高野山」駅です。
正直,ここだけ季節が違うようでした。涼しい風に乗って蜩(ヒグラシ)の「カナカナカナカナ・・・・・・・」と言う鳴き声が聞こえてきます。
バス停の運転手さんに相談して,奥の院まで行くことにしました。他へ行っても,もうどこもしまってるよと言われたもので。
−そりゃそうだ,ここに着いたのは5時だもんな・・・−
バスを降りると更に静かで,もはや風の音と蜩(ヒグラシ)の鳴き声しか聞こえませんでした。傾きかけた日の光が,杉林の間に漂うたき火の煙を照らしています。
ここで,ある事を思い出しました。
・・・・・汗かき地蔵・・・・・・そう言えばここにあったはず。
数年前,合唱団の夏合宿でアンサンブル大会のグループ名に汗かきの僕にちなんで「汗かき地蔵」と付けたのです。冗談半分に付けた名前ですが,そういう名前の地蔵が実在するのを地図で確認したのでした。
バス停でもらった地図を見ると,比較的近くにあり,見に行くことにしました。層々たる人物のお墓(歴史の教科書に出てくるような人物)の中を過ぎると小さいお堂の中に,本当に汗かき地蔵はありました。ちょっと暗くて,お顔は拝見できませんでしたが妙に納得してしまったのでした。
その側には「姿見の井戸」と言うものがありました。覗き込むとゴミが溜まっていて,自分の姿は良く見えませんでした。
帰る時間が迫ってきたので,バス停へと向かい,バスに乗り込みました。以後バスの運転手とおばさんの会話です。
以下運:運転手,お:おばちゃん
運:「この右手の林を入ると汗かき地蔵があって・・・」
お:「へぇ,いけばよかったわぁ・・・」
僕:『ふふ,見てきたもんね』(心の中)
運:「汗かき地蔵はね・・・・」
お:「へぇ〜,そういう由来があるの・・・・」
運:「で,その側に姿見の井戸って言うのがあるけど覗いちゃ駄目だよ」
僕:『・・・!え?の,覗いちゃった・・・』
運:「あれを覗いて,もし,自分の姿が映らなかったら3年以内に死んじゃうんだから。」
お:「いやぁ〜〜見んでよかったわぁ〜〜おぉ〜こわ」
僕:『・・・・・・・・・ごみで,わし,ちゃんと映らんかった。』
高野山の日は暮れていく・・・・・。

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