No.203 '99/2/16

演奏会:ギドン・クレーメル&クレメラータ・バルティカ


昨日、「ギドン・クレーメル&クレメラータ・バルティカ」の演奏会に出かけました。

素晴らしかったです。堪能しました。
クレーメルは最高のエンターテイナーでした。
エンターテイナーというと、すこし軽さを伴っているように想像されるかもしれませんが、昨夜は最上質のエンターテイナー、何と刺激的で知的に満ちた楽しさだったでしょう。

「クレメラータ・バルティカ」はクレーメルによって創られたアンサンブル。
平均年齢が20代そこそこというフレッシュさが昨夜の演奏を熱気に溢れ、創意に満ちたものにしていました。
第一ヴァイオリン6名、第二ヴァイオリン6名、ヴィオラ4名、チェロ4名、そしてコントラバスが二名。
それにキーボード(プリペアド・ピアノ、チェンバロ)奏者一名という編成が一体となって音楽に奉仕します。
最初、少し緊張感があったせいか硬い感じもしましたが、曲が進むほどに、クレーメルのソロによる抜群のリードもあって絶妙のアンサンブルを聴かせてくれました。
曲中のクレーメルのソロの部分では奏者たちも聴き入っている風で(「お客」をしているんですね)聴いている我々もどんどん音楽の世界に入っていくことができます。

客席はちらほら空席もありますが、満席といっていいでしょう。
プログラムは、今話題のピアソラの曲を演奏するとあってか始まる前から観客には期待感が盛り上がっているようでした。
前半のシュニトケの「合奏協奏曲第一番」はクレーメルとタチアナ・グリンデンコ(今回も共演)によって初演された曲なのですが、硬質な木の響きと化したプリペアド・ピアノの入りはそれだけで我々を独特の音響の世界へと導き入れます。
響き合う合奏とソロは時に協和し、時に不協和となって軋みます。それはボーイングからヴィヴラートに至るまで厳格に呼応するのでした。
後半のプログラムはヴィヴァルディとピアソラの「四季」の組み合わせ。否応なしに音楽的高揚へと会場を包み込んでいきます。
音量的にはさほど大きくないクレーメルのヴァイオリン。時には合奏の響きに隠れてしまいそうになるのですが、彼の個性が飛び散って輝きます。
聴き慣れた(弾きなれた)ヴィヴァルディの「四季」がここでは何と面白く創意に満ちた音楽に仕上がっていたことか。
アーティキュレーション、装飾音、テンポを駆使して新しい現代の「四季」へと変貌していたのでした。

終演は9時を回っていました。
開演がリハーサルの延長のために遅れたこともあって伸びたのですが、アンコール(クレーメル自ら日本語を喋りながら案内していました)が終わったのが40分頃。
総立ちとなった聴衆はなお惜しみながらシンフォニーホールを後にしたのでした。

私は久しぶりに弦楽合奏の新鮮な楽しみを満喫しました。
そして、クレーメルの最上のエンターテイナーを堪能しました。
ふぅっとため息です。
(ここまでやられると我々日本人の演奏家は困るよな・・・・)
若い弦楽器奏者たちの生き生きとした表情。私は、ふっと見せるあどけない表情や仕草の中に聴衆の熱烈な拍手を受けた音楽家の喜びを見て取りました。

その彼らを見て何と満ち足りた心を私は感じたことか。

No.203 '99/2/16「演奏会:ギドン・クレーメル&クレメラータ・バルティカ」終わり