No.8 '03/2/13

「合唱でのピアノ伴奏」


ピアノ伴奏を伴う合唱曲を振る場合、ア・カペラを振ったり、オーケストラやオーケストラ付き合唱曲を振る時とは違った気の使い方をします。
今回はその話を。

最近の作品はピアノ<伴奏>ではなく、堂々としたピアノ作品と合唱曲という様式が増えてきました。
合唱が<主>でピアノは<従>という関係ではなく、対等の位置にある作品が増えてきたということですね。
以前は、安易なお座なり伴奏としてのピアノが多かったように思います。
ピアニストにとってはあまり面白くない仕事のひとつだったのではないでしょうか。
それが、高度なテクニックを伴う伴奏が増えて、少しばかり腕に自信があっても太刀打ちできないようなピアノ伴奏が付くようになりました。
ピアニストの重要性がいやが上にも増すことになったわけですね。

複数の人数が集まっての合唱。場合によっては200〜500人、いや一万人という合唱もあります。
そしてそれと対するは一台のピアノと一人のピアニスト。(時には複数のピアノもありますが)
これは凄いことですね。
音楽上でのとても大切な要素が一人のピアニストに委ねられている、ということですね。
指揮者とピアニストの音楽性が一致するという幸福な場合はいいのですが、もし解釈が違っていたり、(失礼な言い方かもしれませんが)あまりピアノ・テクニックが無い方とご一緒した場合など悲惨な結果に終わるという事態にもなりかねません。
それほどにピアニストというのは大きな存在です。

「オーケストラ付き合唱曲」の練習ではオーケストラの代わりにピアノが使われます。
この場合、ピアニストが「ピアノ曲」のように、パフォーマンスに富んだソロ曲として伴奏されたら大変です。(笑)
理想を言えば、各楽器の特徴を捉えて音色の変化にも対応した伴奏を期待したいですね。
フルート、オーボエ、弦楽、管楽器の特徴をピアノで表現できるピアニスト、これは素晴らしい!
その上に、作曲者のことや同じ作曲家の他の作品にも造詣が深い方ならなおさら素晴らしい!!!
ピアノ伴奏ということを忘れてオーケストラと同じ感覚で音楽練習ができること請け合いです。

「邦人の合唱曲」でのピアノ伴奏は上にも書きましたように高度なテクニックを要する曲が多く生み出されています。
楽譜には演奏に関する多くの指定が書き込まれてることが多いですね。
この場合など、前もってピアニストが書かれていること全てを把握されての演奏ならばそう大した混乱もなく曲を通すことができます。
フレーズの入りのタイミング、それに、フレーズ終わりの流れなど、ピアニストが指揮者を見ながら確認することもできます。
曲構成の大枠に関する箇所では指揮者とのコンタクトも取れるということですね。
しかし、高度なテクニックを伴う曲では細かいニュアンスや微妙なテンポ変化の指示はなかなか指揮者からは出しにくいのですね。
ピアニストは、そう指揮者を見続けるということができない事情にあるからです。
事前の細かい打ち合わせがそれだけ重要となります。

私のように、本番で「ノル」というタイプは困ったものです。(笑)
打ち合わせより<大きく・強く><小さく・弱く><早く、遅く>なんてことをしたくなります。
ピアニストが音楽の流れの中で指揮者が感じたことを「察して」、その変化を予見していただけるのであればもう最高の喜びですね。(笑)
<打ち合わせ通り>をするのはプロの仕事。
<打ち合わせ通り>を更に変更するのは芸術家の仕事。
そう思われません?(笑)

長くなっていますね。
此処の問題を書こうものなら、もっと紙面がいりますね。
これはいずれまた書くことにしましょう。
最後に、ピアノのタッチのタイミングについて書いておきます。

合唱曲には「歌詞」が付きます。
歌詞の内容によって音色や強弱の変化をつけることはもちろんのこと、子音の発音を邪魔しないタッチって必要な気がします。
子音と母音とがはっきりと区別される言語では特に重要なポイントとなります。
歌われる子音と同時にではなく、少し遅れて入る。
繊細な耳と敏捷なタッチが必要となりますが、これによってより明瞭に言葉が聞こえてくるはずです。
ピアニストの重要さ、偉大さがこういうところにも働いている、というわけです。

更にもうひとつ提案を
普通、合唱団が<ひな壇>に上がり、その前にピアノが横に置かれて演奏されます。(ピアノ協奏曲の場合のように)
そうではなく、ふたを取る必要があるのですが、ピアノを縦に置いてみるというのはどうでしょう。(ピアニストも指揮者を正面にして見ることができます)
更に、(これはもう現実的ではないかもしれませんが)
時には合唱が前に出て、<ひな壇>にピアノを乗せる。合唱の後方に高くそびえる(笑)ピアノ。
こういうのを一度やってみたいと思うのですが、どうでしょう?
音響も面白いかも知れません。
新しい作品も生まれるような気がするのですが。

No.8 '03/2/13「合唱でのピアノ伴奏」終わり