執筆:当間


二大レクイエム
<使用楽譜「エディション」について>


モーツァルトの「レクイエム」、そしてフォーレの「レクイエム」を演奏するにあたっては使用する「楽譜」が問題になります。

フォーレの「レクイエム」は最近、新しい版を使用することが多くなりました。
いわゆる、フルオーケストラ版ではなく、フォーレが最初に演奏した楽器編成による版です。(一般に<第二版>と呼ばれるものです)

フォーレの「レクイエム」は現在、3つの版が出版されています。

フォーレ「レクイエム」出版譜

1)のフルオーケストラ版が一般的によく用いられている楽譜です。しかし、1969年、マドレーヌ教会(フォーレ自身の指揮で初演された教会)からオリジナルの楽譜の部分が発見されたのをきっかけに研究が行われ、それに基づく演奏が試みられるようになりました。
1988年、レクイエム初演100周年がその機運を高めたことは確かでしょう。

作曲経緯と初演

1877年から構想をあたため、その後10年以上の歳月をかけてこの「レクイエム」は仕上げられています。

1)Introitus - Kyrie
  1888年の初演に先立つ1887年に Pie Jesu, In Paradisum と共に作曲
2)Offertorium
  1890年頃作曲。この曲と6曲目のLibera me は改変が重ねられて後に組み入れられた。
3)Sanctus
  1888年1月9日
4)Pie Jesu
  1888年の初演に先立つ1887年に Introitus-Kyrie, In Paradisum と共に作曲
5)Agnus Dei
  1888年1月6日
6)Libera me
  1892年1月28日最終決定稿
7)In Paradisum
  1888年の初演に先立つ1887年に Introitus-Kyrie, Pie Jesuと共に作曲

初演
1888年1月16日 パリのマドレーヌ寺院。ジュゼフ・ル・スファシェ(建築家)の葬儀。(フォーレ自身による指揮)
Introitus - Kyrie、Sanctus、Pie Jesu、Agnus Dei、In Paradisum の5曲。
楽器編成もソロ・ヴァイオリン、ビオラ、チェロ、バス、ハープ、ティンパニー、オルガンというもの。その年の5月、二つのホルンとトランペットを追加。(この編成の楽譜を<第一稿>と呼んでいます)

この「レクイエム」が最終的な編成を整えたのは1899年でした。
上にも書きましたように、初演では5曲の編成。そして現在のような7曲となったのは1892年1月28日、パリのサン=ジェルヴェ教会での演奏でした。
その後も改変が重ねられ、99年に「レクイエム」最終稿となります。(この編成が<第二稿>と呼ばれます)

評判になったこの「レクイエム」が出版されるとき、弟子のデュカスがオーケストレーションしたフル・オーケストラ版となります。
1900年7月12日トロカデ劇場でこのフル・オーケストラ版の初演が行われ、翌1901年、フル・スコアが出版されました。(この編成が<第三稿>です)

その後1969年、オリジナルの楽譜が発見され、初演時の基づく編成が試みられました。
いわゆる<第二稿>の復元です。
現在二つの復元版がよく演奏されます。
一つは今回我々が演奏する1984年に出版されたジョン・ラッター版です。
もう一つはフォーレ研究家のネクトゥーが主となって1994年出版されたものです。
オリジナル版として今まではラッター版を使用することが多かったのですが、これからはネクトゥー版も演奏されていくだろうと思います。

モーツァルト「レクイエム」レヴィン版

モーツァルトが未完の大作として書き残した「レクイエム」。
この版については様々な復元版が今世紀の後半に出版され(ジュースマイヤー版、バイヤー版、モーンダー版、ランドン版など)、話題を呼びました。
どの版がモーツァルトの意図をよりよく反映しているか?これは永遠の課題です。
今回使用する版は、1991年、モーツァルトの没後200年に新たにロバート・レヴィン(ピアニスト兼作曲家)によって補筆されたものです。

モーツァルトが意図していただろう「アーメン・フーガ」を発見されたスケッチを基に書かれているのが特徴。その他、ラクリモサの後半の修正、ベネディクトゥス後半の新たな推移挿入とオザンナの調性修正が耳をひきます。 その他、音の変更は細部でも行われ、その評価にはもう少し時間が必要かもしれません。

「レクイエムの<版>について」の解説を終わります。