執筆:当間


フランシス・プーランク(1899-1963)

「ミサ曲 ト長調」・『グロリア』・『スターバト・マーテル』


演奏にあたって

「修道士的なところから悪戯小僧的なところまでありとあらゆるものがある」とは音楽評論家クロード・ロスタンが フランシス・プーランク(1899-1963)を評した言葉です。
その音楽に魅了され、数年前からこの作曲家の音楽を取り上げてきました。
今夜の演奏会(生誕100年記念)は私にとってもその集大成的なものとの認識です。

( 我が父の想い出に)の献辞がある 「ミサ曲 ト長調」は1937年に作曲。
この作品は宗教作品としては初期の作品ですが、すでに彼独自の世界が溢れた傑作としてよく知られています。
画家のマンテーニャやバロック時代の修道士の画家スルバランにおける< 静謐>と<瞑想的>な世界に通ずるところがあり、彼自身も「 ロマネスク風、神秘的雰囲気を持つリアリズム、禁欲的な清らかさが自作の特徴だと語っています。

『グロリア』は1959年の5月〜12月にかけて作曲されました。初演は1961年1月20日ボストンで行われ、一ヶ月後の2月14日、パリでヨーロッパ初演が成されています。
今日、プーランクの宗教作品のなかでもっともポピュラーな作品、演奏回数も一番多い曲となっています。
全曲を通して晴れやかさと優しさ、そして輝かしさと力強さを感じます。
彼自身の「天使たちが舌を出しているフレスコ画、真面目な修道士たちのサッカー試合を頭に思い浮かべて書いた」との言葉通り、荘厳さや叙情性の中にも陽気さをもった斬新な曲となっています。

『スターバト・マーテル』は1950年夏、二ヶ月ほどで書き上げられました。
画家で舞台装置家であったクリスチャン・ベラール(1902-49)の追悼のために書かれ、初演は翌年51年、ストラスブールで行われています。曲は美しくかつ新鮮です。 映画音楽的なものもあれば、純粋透明なア・カペラ合唱もあるといった構成で書かれています。
彼が言います。「宗教作品にこそ私自身の最良の部分があります」と。

プーランクの音楽の特徴は
明解で切れ味さわやかなスタイル
直感的閃き(ひらめき)をもったメロディー
ウィットに富んだ展開
チャーミングなリズム感やオーケストレーション
フランスのエスプリを代表する自由奔放な生命力溢れるエッセンスの固まり

と言えるでしょうか。
また、「聖」と「俗」を紙一重的に併せ持った異色の作曲家ともいえるでしょう。

私には彼のこれらの音楽に潜む「心休まる優しさ」「静謐な世界」が好きです。
「俗」っぽいところ、ウィットに富んだところなどにも惹かれます。しかし、そのような箇所においても 不真面目さや不愉快さは微塵も感じることはありません。
彼の真摯な姿勢、詩的な感性の鋭さに魅了されます。
今日の演奏が少しでも「プーランクの魅力」を知る上で貢献できれば幸いです。

「プーランク」の項を終わります。