第48回

女声アルトの低音作り

(06/05/15 一部加筆)

音域を広げるにはどうすれば良いか?という質問が多く寄せられました。
高声部の音域を広げることはファルセットの強化、その延長線上で達成されるものですから説明もし易く、この「合唱講座」では先に項目を作って説明しています。
(「合唱講座」Nr.35《音域を広げる》を参照してください。)
また、低声部の下方方向に広げる方法は「声帯および声帯周辺筋肉の弛緩」いうことで簡単に説明しているのですが、現場での切実な問題、アルトの下方向(低音域)発声のことが省かれていました。

実践の場でのアルトの低音づくりは混迷しているのではないかと思うのですがいかがでしょう。
よく、「胸声」での低音発声のまま歌っているアルトを見かけます。しかしこれだと上声(ソプラノ)との相性がよくないのですね。つまり胸声によった倍音では上に乗っかるソプラノはハモりにくくなるのですね。

アルトの低音はどうして発声すれば良いか?という質問に対するアドバイス、指針です。

実は、アルトの低音は「ヴォーチェ・ディ・フィンテ」のバリエーションとして作られてこそ威力を発揮します。

声を出す(発声する)ということは声帯を閉じ、声門靱帯及び声帯筋を振動させるということです。
つまり声門閉鎖をし、その間に空気をながすことによってそれらを振動させるということなのですが(閉鎖の強度は様々に変化します)、よくありがちなのは収縮によって閉じ、振動を強めようとすることです。
いわゆる、息をつめて力む、いきむ、という状態に似ています。
しかしこれでは、美しく、そして倍音の豊富な声にはなりにくいということはこれまでにも述べてきたところです。
私が提唱する「ヴォーチェ・ディ・フィンテ」をお薦めする所以です。

「ヴォーチェ・ディ・フィンテ」の原理は、伸展の中に収縮の部分をつくって発声するということです。
声帯を取り巻く周りの筋肉を伸展(いわゆる《ひっぱり》の状態に)させ、声門の振動させる部分の収縮力を高めるわけです。
前後左右を引っ張り、間隙(隙間)をできるだけ完全に閉じる。その閉じる強度を伸展によって強めようとすることなのです。
お解りでしょうか?

「声帯」の伸展&声門靱帯の収縮による閉鎖

脊柱図



では【実践】といきましょう。
「ヴォーチェ・ディ・フィンテ」で中音域から中央ドに向かって降りていきます。
下に行くほど声はだんだん細ってくるはずです。
そして下方限界音まで下がってくると、ついに声がかすれて出なくなる音がありますね。これ以上声にならないというところです。つまり、その下は胸声になってしまうというところです。(個人差がありますが中央ドから下のラ〜ミの間でしょうか)
まず、その音を確認しましょう。

【練習法1】
その限界音の声帯を伸展させます。(イメージは下斜め方向)
と同時に(これが重要)、声帯を上の方向にも釣り上げます。
釣り上げるイメージは上咽頭を広げ、硬口蓋を高く、また息は上歯に近く(鼻腔そのものに)当てるもの。相当強く釣り上げるイメージでなければなりません。
この段階で声がひっくり返ることなく《大きく》《鳴れ》ばしめたものです。
目指す声はこの延長線上にあります。

「声帯」の伸展による拮抗

脊柱図



【練習法2】
これは「練習法1」の限界音での練習ではなく徐々に伸展させていく方法です。
慣れれば(伸展法を身に付けた人は)この方法が最適でしょう。
つまり、限界音の2〜3度上から伸展させながら降りていきます。
一つ一つ降りる度に、伸展度を増していきます。
上咽頭を広げ、硬口蓋を高く、また息は上歯に近く(鼻腔そのものに)当てる度合いですね。

なかなか難しいものなのですが、すぐに出来てしまう人もいます。
個人差があるということですね。
骨格、軟骨・筋肉の柔軟性、声帯の大きさ(長く・面の広い)に左右されるようです。



「ヴォーチェ・ディ・フィンテ」が発声にもっともふさわしいものであることは解っていただいているところです。
低音も「胸声」の発声原理に基づくものではなく、「ヴォーチェ・ディ・フィンテ」の一種と捉えて発声すべきものと考えます。
物理として考えてみても、音の大きさは「振動する面積」と大きく関係します。
すなわち、「振動する面積」が大きく(広く)、かつ振動する速度が速まれば音は大きく強く鳴るわけです。
収縮系(胸声)では鳴りません。伸展系(ファルセット)ではじめて声帯の面積が広められるわけですし、薄く伸ばされてこそ振動数も増すわけです。

アルトの柔らかく、ふくよかな響き。低音域の柔らかく、深い響きは合唱全体にとって奇跡を生み出すもの、と私は捉えています。事実、音色的にもハーモニー的にも予想を超えた自然倍音を生み出すことを私は何度も体験してきました。
アルト、それは合唱における《要》としての存在です

ここではアルトを中心に説明しましたが、男声ベースにおいても発声原理は同じです。
男声も試してみることをお勧めします。

第48回「女声の低音作り」この項終わり


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