'96/12/5

奏者から見た「ミサ・ソレ」


今日は「ミサ・ソレ」の内部を探っていくことにしましょう。
といっても小難しいことはなく、奏者側から見たベートーヴェンの作曲法をひも解こうと思うわけです。

「ミサ・ソレ」の中で一番暇な楽器は何だと思いますか?
それはトランペットです。それも使う音はほとんどがド・ミ・ソだけ、現代のトランペット奏者にとってはちょっとつまらない。当時は今のようにいろいろな音が出せず、限られた音しか出せなかったものですから仕方なかったのですが。
そこで、トランペット奏者はひたすら休みを数えることが仕事となるのですね。
しかし、全体の中でのトランペットの音色やリズムは不可欠な要素です。この曲では「喧騒」「戦争」を暗示させる役割を果たしています。奏者は音色や全体の音量のバランスを考えながら奏するのですが、その良さが理解できない奏者はつまらないでしょうね。

さてその次に一番仕事量の多い楽器は何でしょう?
ヴァイオリンですね。少しは休む個所があるとはいえ、全曲を通じて弾き通しをしているのはやはり弦であり、その中心はヴァイオリンということになります。
そしてこの曲での大変さは、トレモロという奏法です。
いわゆる腕を上下に早く動かして音を埋め込むのですね。
これは結構しんどいと思いますよ。

それでは奏者が張り切る楽器は何でしょう?
それは二つありまして、一つはファゴット、そしてもう一つはティンパニーです。
両者ともそれまでの使われより、大幅に表現力が増し、重要な役割を負わせられています。
低音を補強するという役割が多かったファゴットが旋律を奏し、各楽器間の橋渡しの役目を果たしています。奏者としてはやりがいのあるものだといえますね。
一方、ティンパニーはご存知のように、打楽器としてはトランペットと一緒に用いられることが多く、リズムの強化という意味合いが強かったのですが、ここでは独立した用いられ方をされ、個性が与えられています。
ベートーヴェンは革新の作曲家でもあったんですね。
そういった観点から聴いていただくとまた面白味も増すのではないかと思います。

そして、「人の声」。革新ではないです、もうムチャですよ。これが一番キツイんです。
高い音の連続、音域の広さ、そして声量が要求され、細かな音符も結構多く、並みの合唱団では無理でしょうね。
「理想主義」のベートーヴェンならではといえましょう。
とにかく巨人の音楽です。
ヘコタレテなるものですか!