
『再び田園風景の中へ〜そしてイギリス海岸
みちのく一人旅'99その11』(2003/06/02)
賢治記念館のある山を後にして、再び田園風景の中へと自転車を進めました。国道を避け、田圃の中の細い道路を行きます。空はさらに晴れ渡っています。後はイギリス海岸を残すのみです。
思ったより時間があったので、僕はさらに気ままに自転車を進めました。少しずつ日も傾き始めました。迷い方もだんだんエスカレートしていきます。ずいぶん引き返すこともしばしば。
そうなってしまうのは、やはり気になってしまう、行きたいと思ってしまう、思わされてしまう、そう心が動く風景が多いからでしょう。
さんざん迷いながら来た僕の目の前に
「この対岸がイギリス海岸です・・・・」
という看板が現れました。しかしそれと思しき光景がすぐには見あたりませんでした。近くで農作業をいていたおばあさんに早速尋ねました。
「そんだ、この向こうぎすがイギリス海岸だなは・・・むかすは、もうちょっと白
の色がきれぐでよがったんだども、いまはきたなぐなってまってなは。・・・」
と一生懸命説明してくれました。その後僕がどこから来たかという話や、今日はどこ回って来たかという話になりました。作業の手をしばし休めて、僕につきあってくれたのでした。宮沢賢治の話題になったとき、何人かのお年寄りの方は「賢治さん」と呼んでいました。僕もそれに習って、宮沢賢治の話題を出すときに「賢治さん」というと、いっそう会話が、和むのでした。
地元の人にとっても、誇りであり、より身近な存在なんだなと感じる瞬間でした。
おばあちゃんにお礼を言い、別れを告げ、対岸のイギリス海岸を目指します。朝日橋をわたり、北上川をさかのぼるとイギリス海岸はありました。しかし、おばあさんの言うように昔の面影はなく、その特徴ともいえる白い石灰質の土壌は豊かな北上川の水流の底にあり、今はその一部しか目にすることが出来ませんでした。
花巻を思いっきり堪能し、自転車を返しに行きました。そこでも店番のおばさんと会話が弾み、汗をいっぱいかいた僕を見かねて「麦茶でも飲んでいくかい?」と麦茶を一杯ごちそうしてくれました。しかも夕食に町へ繰り出すなら、この続きでタダで使っても良いよ、とまで言ってくれたのでした。ホテルに夕食が用意されていたので、ご厚意だけ受けておきました。
天気にも、出会う人にも恵まれた花巻の一日がこうして終わりました。

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