No.('94/12/11)

ベートーヴェン第9


演奏にあたって
指揮者 当間修一

これはしばしば機会あるごとにおしゃべりしたことですが、私の音楽歴はベートーヴェンを聴き親しむことからの始まりでした。その後私はバッハとの強烈な出会いをしたわけですが、それ以後、バッハの音楽をより深めたいとの必然性からバロック・ルネッサンス音楽へと歴史をさかのぼっていくことになります。シュッツとの出会いはこうして起こりました。
ヨーロッパの古い音楽にかかわれたのは私の幸運でした。音楽の成り立ちや演奏スタイルを考え、また、楽器や表現法の知識を得るためにはこれほどの貴重な体験は他には無かったと思います。
演奏の見直し、これは私にとっての重要なポイント。ヨーロッパではオリジナル楽器による演奏が盛んになっていますが「音楽の再発見」が古楽器奏者やその指揮者たちによっているのが象徴的です。近年のさまざまな研究を採り入れ、その成果を演奏スタイルの見直しの中で実践していっているのはさすがと思わされます。
わが国では残念ながら古楽器、いわゆるオリジナル楽器による演奏には現在多くの困難を伴います。まず楽器が自由に手に入らないことや文献や伝統がないため奏者が育ちにくい状況があります。
少しづつ増える傾向にはありますが、「盛んである」というにはほど遠いですし、一般的でもありません。

私は以前から名指揮者や名門のオーケストラによる演奏に感動し、憧れながらも、歴史的演奏様式には懐疑的な思いを打ち消すことができないでいました。
楽譜に書かれていない「間」、作曲者の意図ではなく頻繁に用いられる大げさな「だんだん遅くすること」「だんだん早くすること」等、いわゆる「解釈」するという名目で行われている習慣的な演奏に疲れることが多くなってきていました。
私の「演奏意図」はヨーロッパでの「演奏見直し」と時を同じくしています。
模倣ではなく、私自身の共感と確信から生まれる思いを「生きたリズム」として表現したい、それが私の演奏意図です。
「合唱団」は多くの演奏会でそれを実践、CDにも残し、予想を上回る多くの方々に聴いて頂くことが出来ました。「アンサンブル・シュッツ」も独自の活動でこれからも多くの方に指示していただけるよう演奏に取り組んでいきたいと考えます。
一昨年から、この年末「第9」を聴いていただきながら、私のベートーヴェンの演奏見直しも続けていくことにしています。シンフォニー連続演奏がそれです。すでに「第4番」は聴いていただきました。今日は「第8番」です。
喜びに溢れた「第8交響曲」。彼特有の力強さと楽器法の面白さ、軽妙さ、スケルツォに替わるメヌエット。あまり評価されてこなかった曲なのですが、私はこの曲に愛着を覚えますし、演奏見直しによる成果がもっともある交響曲だとも思っています。
パート譜も間違いや訂正個所が少なく、ベートーヴェンの意図が信憑性をもって伝わっている幸福な作品でもあります。
この作品を書いてからかなり長い期間ベートーヴェンの創作活動は低迷期をむかえます。
身の回りに起こる様々な出来事からの感情的動揺、虚脱感、新しい音楽の潮流などで彼の活動は鈍くなってしまうのです。
「第8番」を書いてから10年後に「第9」が書かれます。
演奏する立場から言えば、まだまだ「第9」は問題を含んでいる作品です。
いま伝えられている楽譜の見直しがされなければなりません。疑問に思うところ、明らかにおかしなところが沢山あって、細部にわたって確信を持つにはもう少し時間がかかるとと思います。今回も演奏にあたって2、3カ所音の訂正、変更を行いました。
これからの研究、出版が持ち望まれます。
「シュッツ合唱団で『第9』を聴いてみたい」というご意見。これが年末に我々が「第9」を取り上げるきっかけでした。それが私の音楽歴の始まりとしてのベートーヴェンの見直しと合致したわけです。
今日の演奏が少しでもベートーヴェンの再発見につながることとなりましたら幸いです。





INDEX 合唱講座 演奏にあたって あいさつ 雑文 Home Page 終了