八重山毎日新聞社コラム

「やいま千思万想」No.42


【掲載:2014/11/26(水曜日)】

やいま千思万想(第42回)

「大阪コレギウム・ムジクム」主宰 指揮者 当間修一

[「人」が音楽をつくる「音楽」が人をつくる(5)]

 今回は二人のカウンターテナーのことを書いてみましょう。
先ず、カウンターテナーとは女声の声域(ほぼアルト)で歌う成人の男声のことです。
昔は女声の代わりに教会音楽などで用いられていました。
その伝統は現在もイギリスなどに残っているもので、女声にはない芯のある良く透る声であるばかりか、妖艶さも感じる声質です。
 私が新しい響きとして求めた合唱にはこの「カウンターテナー」が是非とも必要でした。
しかし、当時はこの存在を知る人も少なく、男性が女性の声を出すことを生理的に拒絶する人もいてその人材がいなかったですし、育成しようにもしようがなかったという時代です。
しばらくたって宮崎駿によるスタジオジブリの長編アニメーション映画「もののけ姫」によってカウンターテナーの存在を多くの人が知るようになりましたが、まだその時代に入る前の話です。

 私が指導していた大阪府立大学(府大)の合唱団の中でカウンターテナーを見つけるのにそう時間はかからなかったように思います。
声のことを話せば、学生たちは興味津々、好奇心旺盛な彼らの中にはすぐに取り組み始める者がいます。ただ、その声に相応しい喉を持った人材はいるのですがそれを本人に気付かせ、養成するのは大変でした。
 白羽の矢が当たったのは「たっちゃん」、「イケちゃん」と呼ばれる二人。
まず「たっちゃん」ですが、彼はテノール(男性の高声パート)だったのですが、その練習のためにファルセット(裏声)を勧めたのがきっかけで生まれました。
彼は我が国でのカウンターテナーとして草分け的存在と言って良いと思います。
 もう一人の「イケちゃん」は彼の後輩にあたります。
ある合宿でのこと、これも練習のためにファルセットで歌わせてみたのでが、その美声に驚いて早速口説きました。
本人は「??」で、とにかく「始めてみようよ」の乗りで始まりました。
彼らにはどんどん演奏会で歌わせてみたのですが、本当に全体の合唱の色が変わりましたね。
私の理想とする響きに一気に近づいた感じです。
その後、彼らは他のメンバーと共に私がプロデュースしたヴォーカル・アンサンブル「アウローラ・ムジカーレ」でもCDデビューです。

 二人に共通しているのは現在の仕事がインターネット関連であることで、1人はITの会社を起業、もう一人は大手電気メーカーのソフトの使い方を指導して全国を飛び回っている超忙しのメンバー。
そして両方とも合唱団の女声と結婚していることも私には関心が深いです。
現在は忙しくて演奏活動は休みがちなのですが、彼らが蒔いた種の後には着実に新しい人材が育ち始めています。
 この日本でカウンターテナーが定着するのはもう少し時間がかかりそうなのですが、音響学的にいっても文化的にいっても是非とも定着させたいと思っています。
 このカウンターテナーでなければ実現できない世界があるからなのですね。
正に西洋音楽の響きが現れるのですね。 (この項続きます)





戻る戻る ホームホーム 次へ次へ