八重山毎日新聞社コラム

「やいま千思万想」No.57


【掲載:2015/07/09(木曜日)】

やいま千思万想(第57回)

「大阪コレギウム・ムジクム」主宰 指揮者 当間修一

[さまざまな音世界 音律の話(その3)]

 八重山の音楽、音律を早くお話ししたいというはやる気持ちを抑えながら、音楽の基本である音律をより理解していただくために西洋の音律のことから書き始めています。
 前回はギリシャ時代に現れた西洋音楽の基礎、ピタゴラスの発見した法則について書きました。
今回はその「ピタゴラス音律」の話です。

 バビロニアやエジプトの古代文明では耳の感覚によって楽器が調律されていたことが知られています。
ただ明確に体系づけられたり法則を発見するにはまだ至ってはいませんでした。
音は全て感覚的に作られていたのですね。感覚の基準とはなんでしょうか?
それは心地良く美しく響くか、それとも心地良くないかということです。
前回に書きました「ゥワーン、ゥワーン」と音が大きくなったり小さくなったりする「うなり」無しという響き、それが美しく響く、心地良い協和、調和した響きとして基準となりました。
感覚的に基準となる響き、それはオクターブであり、5度音程の響きでした。この音程での響きが心地良く美しく響いたのです。
 西洋音楽はこの2つ、特に5度の響きの発見によって始まり、基本となったと言って良いでしょう。
5度音程とは、例えばドレミファソラシドのドとソの関係です。
ドから数えて5番目のソ、(オクターブ上のドから下に向かって数えると4度です)このドとソを一緒に鳴らすと響きがとても調和して美しく響きます。
ピタゴラスはこの5度の響きを次々に重ねて音を作っていきます。
詳細は省かざるを得ないのですが、この5度の反復(十二回の繰り返し)が数学の計算から生み出され、音階となるドレミファソラシドの8つの音が生みだされました。これが「ピタゴラス音律」と呼ばれるものです。
 ただし、ドから始まって積み重ねて取り出した8つの音、すなわちオクターブ上のドへ到達したのは良いのですが、実は少しずれたドになってしまいます。
戻ってきた音は完全には一致しないわずかに高い音なのです。これが「ピタゴラス・コンマ」と呼ばれる誤差で、「人類に与えられた大きな試練」だという人もいます。
この誤差をなんとか修正していく過程、それが西洋音楽の音律の歴史であり、後に幾つもの「音律」が現れて時代と作曲家に大きな影響を与えることになります。
例えば、ヨハン・ゼバスティアン・バッハ〔1685-1750〕とヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト〔1756 - 1791〕、そしてフレデリック・フランソワ・ショパン〔1810年 - 1849年〕はそれぞれに聴いていた響きが異なっていたということです。
ある記録によれば、演奏する際には何台かの楽器(チェンバロ〔ハープシコード〕)が並べられ、演奏する曲によって楽器も替えていたということですし、今日のピアノでも奏者によっては調律法を替えて演奏することがあります。
(この項つづきます)





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