八重山毎日新聞社コラム

「やいま千思万想」No.113


【掲載:2017/11/16(木曜日)】

やいま千思万想(第113回)

「大阪コレギウム・ムジクム」主宰 指揮者 当間修一

多彩な価値観を持つ東京とその地での公演

 「東京公演」を過日終えました。数年前まではほぼ毎年開催していたのですが、スケジュールの関係で前回から約2年半振りという間隔が生じました。
大阪を拠点としている団体ですが、何故東京まで出かけて演奏するのか。
それは東京の聴衆の反応を時折感じなければとの思いからです。
実に面白いというか、興味深い反応を得ることができます。
人口が多いからでしょうか、さまざまな趣味嗜好、演奏の多様さを受け入れるという人が多く、楽しみ方も色々です。
まず曲目に対する興味度が多角的。
今回選んだ曲を並べると第1ステージは寺嶋陸也「ざんざんと降りしきる雨の空に」、第2ステージは西村朗「水の祈祷」、そして第3ステージは千原英喜「白秋・東京雪物語」の3曲。

 少しだけ曲の解説を。
第1ステージは中原中也賞を受賞した南三陸町の詩人、「トゥレット症候群」という障害に悩んだ須藤洋平氏の詩集から4篇がテキストとして選ばれ、ア・カペラ(無伴奏合唱曲)での難度の高い作品で、声の響きによる魂の叫びを表現します。
第2ステージは歌とピアノとグラスハーモニカ(18個のワイングラスの妙なる響き)による神秘的な陶酔の祈り〈陀羅尼(だらに)〉の世界。
最後のステージでは、艶やかな照明とリズム感溢れる踊りを加えた娯楽性の高い、新しい合唱の形、千原英喜の「白秋・東京雪物語」です。
本来ならば拠点とする地にこだわった、生活の場の伝統に即した曲をと思われるかもしれませんが、それはまたの機会にプログラムするとして、今回は東京に因(ちな)んだ、いや、世界的な視野で曲選びを行ったものです。

 会場には作曲家の三人もご来場。
そして終演後のレセプション(打ち上げ)にも参加され、演奏談義も盛り上がりました。
「現代曲」を演奏する喜びや楽しみ、それはご本人と共に音楽作りを行うことができるということです。
楽譜を介しての演奏となるコンサートではこのことは重要な意味を持ちます。
日本の誇るべき作曲家による今回の演奏曲目。
これらを演奏する事で、長い音楽演奏史上に新しい1ページを加えたことになります。
伝統に根ざしながらも個性豊かに、想いの密度も高く、様式的にも新しい音楽世界を繰り広げようとした作曲の意図を紹介できたのではないかと思います。
未来へと放たれたこれらの作品、根を張って花を咲かせ得るかどうかは時を待たねばならないことではありますがその予感は確かです。

 東京での聴衆からは私が想像した以上の反応が返ってきました!
娯楽性の高い作品も評判となったのですが、難解で、いわゆる〈理解しがたい音楽〉の部類に入る作品が好評だったのです。
後に寄せられた感想や、流されていたインターネット上での書き込みからもそう判断できます。
思うのですね、時代を作る、時代を刻むということは、古きものには「今を生きる」息吹を、そして未来には確信に満ちて「未来を生きる」息吹を勇気を持って放つことなのだと。





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