八重山日報コラム

「音楽旅歩き」No.61


【掲載:2015/09/28(月)】

音楽旅歩き 第61回

「大阪コレギウム・ムジクム」主宰 指揮者  当間修一

【人の暮らしは響きの歴史(その7)】

 さて、「響き」のことを書いているのですが、今回は少し視点を変えて音(音響)を作り出す再生装置について書きましょう。
現在はスマートフォンなどに入れて音楽を聴くのが主流でしょうか。あるいは自宅でゆったりとCDプレーヤーで聴かれている方もおられるでしょう。そして再評価されているLPレコードをプレーヤーで愛聴されている方もいらっしゃるかもしれません。
 それぞれに音に<こだわり>、器機にも<こだわり>と愛しさを感じられてのことだと思うのですが、今回はもっとも古い「蓄音機」(フォノグラフとかグラモフォンとも呼ばれます)について書きたいと思いました。SPレコードの時代ですね。
これも「響き」の面白さであります。

 私の世代はLPレコードで育ち、CDプレーヤーに移行した世代です。今でもLPレコードは相当の枚数を所持しているのですが、一時は聴かれることもなくレコード棚に並んでいるだけでした。
 最近ではプレーヤーの廉価なものが普及し、時折CD化されていない盤を取り出しては懐かしく聴いているのですが、デジタル化(音を数値で表現すること)されては聞こえないアナログ音(機械的・電気的な物理現象を直接に利用して表現する)の良さを感じながらの鑑賞です。
 そういえば、LPプレーヤーでのカートリッジ、アーム、ターンテーブル、針圧、そしてアンプにケーブルにとこだわっていた事を思い出しますね。高級品になるとそれはそれはなかなか手に入りにくい額がしていました。
それらを競っていたことも今となっては懐かしい想い出です。

 話は蓄音機へと戻ります。最近ではこの世界がトレンドの兆しもあるとか。
以前、金沢に遊びに訪れた時「金沢蓄音機館」に行ったのですが、そこで聴いた「音」に驚きました。
確かに今日のLPやCDの再生音にはかなわないところがありますが、その想像を遙かに超えた音響はとても魅力的!だったのでした。
 蓄音機って電気を使いませんね。「音声の振動を物理的な溝の凹凸ないし左右への揺れとして記録したレコードから、ターンテーブルの動力に手巻き式のぜんまいや巻き上げた重りを利用し、針によって振動を取り出し拡大して、音声を再生する装置」という装置です。
後にはレコード針から捉えた振動を電気信号に変換して増幅し、スピーカーから鳴らす「電蓄」(電気式蓄音機)が登場するのですが、それまでは立派に一時代を築いた音響再生装置です。音量は変えられないのですがそれはとても大きな音で、普通のマンションでは再生するのには憚(はばか)られるほどの音です。

 生音(なまおと)により近づこうとの指向でしょうか。温かい手触りの良さでしょうか。
そこには確かな「本物」があると思います。現代のCDに冷たさを感じ始めた人たちがLPへ戻り、そして更にSPへと到り、最後には蓄音機に辿り着いたのか。
電気を介さない音の復元、原点は肌感覚の「振動」の伝達なんですね。
(この項続きます)





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