No.4 '00/8/2

Auftakt 最初の一振りアウフタクト


奏者たちは、タクトが振り下ろされるのを待っている。
緊張の一瞬ですね。
音楽の始まりはこの一振りからです。
アウフタクトと呼びます。

指揮法で学ぶことはたくさんあるのですが、その中でもこのアウフタクトは、学ぶことも、教えるのも難しい課題の一つです。
テンポ設定のところでも書きましたが、テンポを示すのはこの一振り。
これがなかなか巧くいかないのですね。
この一振りと、音楽が流れ始めるテンポが違っている、初心者の悩みはここから始まります。

この一振り、指揮者としての資質が全部暴露されてしまう、恐ろしい一瞬です。
立ち姿が、曲の雰囲気を醸し出せていなければなりません。
目が、曲の内容を輝き出せていなければなりません。
一振りが冒頭の感情を表すのにふさわしいものでなければなりません。

緊張のあまり、腕がけいれんし、指が震えます。(笑)
冒頭のフレーズをイメージし、歌い、いくつかのフレーズと関連づけ、頭の中で拍を数え、リズムを取り、清水の舞台から飛び降りる気持ちで振り始めます。(これ、オーバーじゃないんですよ)
でも、巧くいかないことのほうが多いんです。悩みますよね。

どうしたら、巧くいくと思います?
経験を積むしかない、ということも事実なんですが、精神的な面で言えば気力を強く持つことと楽曲内容の把握ですね。
バトンテクニックも持っていなければなりません。 結論は、曲と同化することしかないですね。
客観的なスタンスを保ちながらも、曲との同化が少し勝っている、というバランス状態がいいんじゃないでしょうか。

舞台では奏者たちが指揮者の出を待っている。
ホールは期待にみちて緊迫した空気が張りつめている。
こういう状況、緊張しますよね。怖〜いですよね。
逃げ出した〜い気持ちになることってありますよね。
でも、最初の振り出しのこの緊張感がたまらなく好きだから指揮者を辞められないんです。
この一振りに魅了されてこそ指揮者が続けられるんですね。

アウフタクト、とても恐ろしい一瞬なんですが、また魅惑でもあるんです。

No.4 '00/8/2「Auftakt 最初の一振りアウフタクト」終わり