執筆:当間
ハイドン(その2)

<イタズラっぽくラブリーなハイドン>


ハイドンは8歳の時、音楽の都ウィーンのそのまた中心にあった最大の教会シュテファン教会の合唱隊に入ります。

合唱隊は宮廷でも歌うことになっていました。
この頃まだシェーンブルンの宮殿は工事中だったらしく、足場が組まれていて、これが少年たちのかっこうの遊び場になっていたんですね。
もちろんこれは危ないからと、遊びを止めさせるお達しが女帝マリア・テレジアから出されたんです。
でもハイドンは止めなかったんですね。
当然彼は叱られ、その上お尻を叩かれるというお仕置きを受けたそうです。
でも、ハイドンは美しいボーイ・ソプラノの声を持っていて、マリア・テレジアからは特に目をかけられていたそうです。

変声期を迎えたのが15歳頃、独唱者としても活躍していたハイドンもこれでちょっと転換期を迎えなければならならくなった難しい時期ですね。
17歳のある日、彼は新しく手に入れた鋏<はさみ>の切れ味を試そうとしたらしく、前の席にいた少年のカツラをちょん切ってしまうんです。
まぁ、これをきっかけにハイドンは合唱団を辞めさせられてしまうんですが、合唱団としてもこれはいい機会だったのでしょうね。声の変わった合唱団員ではもう不要だったかもしれませんからね。その上悪いことにハイドンは反抗的な態度に出たらしく、その結果1749年11月のある寒い日、着の身着のままで市中に放り出されたんです。

音楽上でも彼はいろいろと面白いことをやっています。
いたずら音楽の話を先ず一つ。

街では夜、セレナーデが聴かれるといった時代でした。
彼は仲間を集め、街の角に分散させ、ある時刻になったら一斉に好きな楽曲を演奏するよう指示したんです。(でもこれはそれぞれに別々の曲を指定したのではないかと私は思ってしまいます)
これはもう想像がつきますね。時々は偶然による心地よい響きを生みだしたかもしれませんが、驚いたのは住民の人々です。
大騒ぎとなり、何人かは「雑音取り締まり」のために捕まってしまいます。可哀想だったのがティンパニー奏者。
大きなティンパニーを抱えて右往左往しているのですから、これは直ぐに捕まりますね。
また、片足を痛めていたヴァイオリン奏者も捕まって、数日間留置されてしまったといいます。しかしこの二人は決して首謀者の名を明かさなかったそうです。

次にちょっと<真面目ないたずら?>の話。

女帝マリア・テレジアが側近のものにささやいているのを聞いたハイドン先生、コンサートマスターとぐるになって演奏を中断させた話です。
本職でない高貴な若殿が4人ほど入っているオーケストラ、そのオーケストラがもし本職であるハイドンやコンサートマスターがいなくなったらどうなるのだろう、これが女帝の「ささやき」だったそうです。そこでハイドンは実行したというわけですね。
計画的にG線を切ったハイドン、しかし気を利かした若殿の一人は自分の楽器をハイドンに差し出します。これでは計画は失敗に終わります。とっさにハイドンは「鼻血です」といってハンカチを取り出し、鼻を押さえて足早にその場を離れます。
これを合図にコンサートマスターもG線を切ってオーケストラを抜けました。
結果は・・・・・わずか数小節で止まってしまったんですって。
女帝は大きなお腹をゆすって、大笑いしたということです。

交響曲 第45番 嬰ヘ短調 「告別」
この「告別」という名は後世に付けられたもの。
家族と離ればなれになって寂しさ思いで演奏する宮廷楽団の団員たち。その団員たちの休暇願を聞き入れてもらおうとの意図も含んで作曲されたとされています。
この曲の第4楽章。終わりのほうで演奏している楽員が、ひとり、またひとりと、演奏を終えて楽器を片づけ、譜面台の蝋燭を消して退場していきます。そして、最後には二人のヴァイオリンだけが寂しく14小節間を奏し、消え入るように曲が閉じられます。これは初演の際にハイドンが指示したそうです。
これは功を奏したらしく、演奏した翌日には楽団員全員に休暇許可が出たそうです。

交響曲 第94番 ト長調 「驚愕」
名前は曲の初演後すぐに付けられました。
名前で判るように、この曲には「驚かせる」部分があるのです。
有名なのは第二楽章のアンダンテ。ティンパニを伴う突然のフォルテ音が打たれます。
これは眠ってしまっている、あるいはペチャクチャとお喋りが止まらない聴衆に対する「高度なイタズラ?」といわれているんですが・・・。四楽章の最後にも「驚愕」の効果の部分がありますが、こちらはあまり知られていませんね。
この曲大評判となったそうです。
実はこの二楽章の主題、「四季」にも登場します。彼のこだわりが、そして自負があったんですね。
この説明は「四季」の解説の時にします。

 

「イタズラっぽくラブリーなハイドン」の項を終わります。


 

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