執筆:当間


<木下牧子作品展2「合唱の世界」の世界>


木下牧子作品展2【合唱の世界】のプログラムは、初演、改訂初演を含んだもので木下牧子さんの並々ならぬ意気込みを感じます。木下作品の色調豊かな世界が色濃く表れていて、ファンにとっては聴き逃すことのできない演奏会になると思います。

選ばれた詩を時代順に並べてみましょう。

■島崎藤村  明治 5年-昭和18年(1872-1943)
■北原白秋  明治18年-昭和17年(1885-1942)
■萩原朔太郎 明治19年-昭和17年(1886-1942)
■蔵原伸二郎 明治32年-昭和40年(1899-1965)
■北園克衛  明治35年-昭和53年(1902-1978)

当日のプログラム順は以下のようになる予定です

■北園克衛 明治35年-昭和53年(1902-1978)
「ELEGIA」

■島崎藤村 明治5年-昭和18年(1872-1943)
「あけぼの」「春は来ぬ」

■萩原朔太郎 明治19年-昭和17年(1886-1942)
「仏の見たる幻想の世界」

■蔵原伸二郎 明治32年-昭和40年(1899-1965)
「虚無の未来へ」

■北原白秋 明治18年-昭和17年(1885-1942)
「邪宗門秘曲」

となります。

我が国の近代詩における<あけぼの>の時代から、シュールな世界へと移りゆく叙情の世界が一望できます。
前半では、無伴奏による混声、女声、二重合唱が並び、
後半には管弦楽を伴っての混声です。

新作を含む今回の曲、なかなか難しかったです。
音程が取りにくく、ハーモニーも繊細ということもあるのですが、それよりも詩の世界の叙情性に苦慮します。
シュッツ合唱団の活動はむしろその叙情性をぎりぎりまで削ぎ落としての、言葉の意味とその背景の世界を追求する歴史でした。
ハインリッヒ・シュッツの音楽の世界は、言葉の音楽化、言語の音化ということになります。
いかにして言葉の意味を聞き手にメッセージとして伝えるか、この道程だったのです。

言葉をこえた感覚、それが今回選ばれている詩の世界です。
平たく言えば、日本人が感じ得る「以心伝心」の感覚の世界でもあります。
北園克衛や蔵原伸二郎の詩の世界、それはシュールな世界、虚無の世界なのですが、この二つに共通するものがメランコリー(憂鬱)であり、寂寥(せきりょう)なる精神となれば、歌う姿勢がかなり我々のアプローチと違ってきます。

共通すると言えば、時代を超え、国や民族を超えたリリックな感覚、美の感覚です。
しかし、その感覚もそれぞれの立っている場、向かおうとする方向、基層の違いによって微妙に表現されるもののなかに<違い>として反映されます。

今回の演奏会がそういった困難さを伴うものであっても、その世界を表現しようとする我々にとって大きな喜びがあります。
それは「木下牧子」の<響きの世界>であり、<音空間の世界>です。
「木下牧子の世界」、その「リリシズム」を聴いていただく多くの方に知っていただきたい、その思いで一杯です。
シュッツ合唱団の<響き>と木下牧子の<響き>がどう混ざるか。
当日が待ち遠しく思います。

詩の世界を垣間見ていただこうと作成しました。
著作権など少し気になるところなのですが、詩も全文掲載しています。
ご意見などありましたら是非お聴かせいただければと思います。

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