ヨハネ受難曲


今年のバッハ「ヨハネ受難曲」の三つの演奏会が全て終わった。
思えば、私のバッハとの出会いは「ヨハネ受難曲」であった。

大学合唱団に入って一年、同じ合唱団でクラシックに詳しい奴に「バッハを聞いてみようと思うが、何が良い?」とたずねると即座に「そらもう、リヒターやで!」という答えが返ってきた。
当時の私は、とりあえず大曲を聴いてみたい、というのと、出来るだけ安く、という気持ちがあったので(安易なオレ‥‥)、リヒターのヨハネ受難曲のCDを買った。

このCDを聴いたときの衝撃は今でも色褪せていない。
間違いなく私を音楽・合唱の世界へと導いた最初にして究極の名盤だと思っている。
それからの数年、何度も何度も、CDがすり切れるんじゃないか、と思うくらい聴いた。一生に一度でいいからこの曲が歌いたいと思うようになった。

ある合唱団の演奏会でこの曲を聴いた。世界でも有名な指揮者だったが、正直言ってつまらなかった。チェロがかっこいいな、と思うくらいだった(後年わかったが、その時チェロを弾いていたのは、アンサンブル・シュッツでもおなじみのO木さんだった)。
大好きな曲を生で聴ける!と楽しみにしていただけに、残念であった。

そしてシュッツ合唱団に入団、2回目のステージがバッハ「ヨハネ受難曲」であった。
一生に一度歌いたい、と思っていた曲を早くも歌うこととなった。
喜びでもあったが、ひたすら大変だった。ただがむしゃらに歌ったことしかおぼえていない。全然歌えなかった事しか記憶にない。
もっとこの曲を歌いたい!と思った。すると一年後にもう一度やることとなった。

しかしこの一年後のステージも惨敗であった。初めてのCD録音録りで、柄にもなく緊張し、ただでさえ無い実力が、さらに出せなかった。
その後、当分ヨハネはやらない、との話を聞いたときには何とも言えない気持ちであった。

それから五年、色々なステージを経験さしてもらった。バッハだけでも「マタイ受難曲」「ロ短調ミサ」「クリスマスオラトリオ」といった大曲に、モテットやカンタータも歌った。ドイツでも歌った。
少しは(自分も)上手くなったなったかなぁ?と思った頃、再び「ヨハネ」をやることとなった。

シュッツ合唱団で神戸と京都での二回公演、さらに和歌山バッハコールの定期演奏会でも歌うこととなった。三回もバッハのヨハネを歌うことが出来たのだ。これを至福と言わず、何と言おう?

本当に楽しかった。合唱の練習でも、オケ合わせでも、本番でも一回歌うごとに何か発見があり、一回歌うごとに、自分の未熟さを思い知らされ、一回歌うごとに、最初に聴いたときの衝撃を思い出す。
初心にかえったり、新たな気分になれる。どんな時でも、思わず全力で歌ってしまう。自分でも考えられんほどのエネルギーをいつのまにか注いでいる。
噛めば噛むほど味が出るスルメみたいな曲‥‥いや、いかにスルメでもこんなに味が出続けることはあるまい。スゴイ曲なのだ。

一生に一度歌いたいと思っていた曲、今は何回でも挑戦し続けたいと思うバッハ「ヨハネ受難曲」。私の原点であり、通過点であり、終点かも知れないこの曲。
またこの曲と対峙する日が楽しみでならない。

00.5.11

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