大阪コレギウム・ムジクム
第498回マンスリー・コンサート ~音楽の花束~
《麗春スペシャル》

プログラムに寄せて

バス:園田恭弘
今週日曜の午後は、マンスリー・コンサート《麗春スペシャル》。
先月に引き続き、シュッツとモンテヴェルディの作品から選りすぐってお届けします。
17世紀前半に、ドイツとイタリアで活躍した二人の作曲家の音楽を聴き比べることで何が見えてきますでしょうか。

シュッツ「十字架上の七つの言葉」
聖書に遺されたイエスの言葉を柱に、その受難を描きます。簡素な作風ながら、誇り高く死に向かうイエスの覚悟と心情が胸を打つ名曲です。作曲の経緯など詳しいことは伝わっていませんが、キリスト教社会では、中世から各地で「受難劇」が上演される伝統があります。登場人物がソプラノ、アルト、テノール、バスに配され、技巧的な表現は抑制されていることから、シュッツが当時活躍していたドレスデンの宮邸や教会で、聖歌隊の少年たちが、日ごろの成果を発表する様子を想像してしまいます。わたしたちの今回の演奏では、フレッシュな配役とともに、新たな試みを予定していますのでお楽しみになさってください。

シュッツ
「シンフォニエ・サクレ第3集」 より、「サウル、サウル、なぜ私を迫害するのか」

サウル(後のパウロ)が、キリスト教に改宗し、その後半生をキリスト教伝道に捧げることになるきっかけとなったイエスとの出会いを劇的に描いています。イエスの呼びかけの声には、シュッツには珍しい強弱の厳密な指定と合わせて、フォルテの部分には二群の合唱が重ね用いられており、オペラの一場面を見るかのような、エコー効果が発揮されます。

モンテヴェルディ
「倫理的・宗教的な森」より、
  「あなたに告白します、主よ」
  「この主の証聖者は」
「マドリガル集」第7巻より、
  「金色の髪、美しい宝よ」

いずれの作品も、声とヴァイオリンなどの器楽との協奏的なアンサンブルで、これらを通して聴くと、宗教的作品と、女性の愛を描く世俗マドリガルの違いよりも、共通点が露わになるのではないでしょうか。合唱を中心としていた作品群から、オペラの作曲を経て、ソロの声と楽器によって劇性を追求した作曲スタイルは、バロック時代の始まりを告げるものと言えるでしょう。
ちなみに表題の「森」は、イタリ語“selva”の訳で、辞書には「選集」「名作集」の語義も記載されており、こちらの訳のほうがピンとくるかもしれませんが、分け入るに価するというニュアンスで「森」と訳したのであれば、中々のセンスですね。

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