八重山毎日新聞社コラム

「やいま千思万想」No.03


【掲載:2013/05/16(木曜日)】

やいま千思万想(第03回)

「大阪コレギウム・ムジクム」主宰 指揮者 当間修一

[やいま千思万想]

 私がまだ幼かった頃、夏が近づいて来ると楽しみにしていることがありました。
ホタルを見ることです。

あの幻想的な光は幼心にもある種の情緒を感じさせたの でしょう。
しかし、最近終(つい)ぞ見ることが少なくなりました。
日本の大都市ではその夏の風物詩は遠い記憶だけになっているようです。
一時期、自然保護の気運が高まった折りに「保護」や河川に放流されたりしたそうですがまだまだ復活は困難を伴い、今では人工的に作られた鑑賞スポットとして開放されているようです。

 ホタルに託された思いは俳句・短歌、小説・映画の題材となり、そして各地の地名としても残され、人々がどれほどホタルを愛していたかが偲ばれます。
そこはかとなく感じることを描くには最適なホタルの「光」だったのでしょう。
音楽も親しまれています。<蛍のひかり窓の雪>と歌う唱歌の「蛍の光」、<ほ・ほ・ほたるこい、こっちの水は甘いぞ>と歌う秋田地方のわらべ唄「ほたるこい」。
そして沖縄は那覇のわらべ唄「じんじん」など。

 ホタルって世界に2千種もいるんですね。幼虫時代を水中で過ごすものと陸上で過ごすものに分けられるそうです。
私が幼い頃追っていたのは川に生息するゲンジボタル。
それが唯一のホタルと思っていたのですから<井の中の蛙大海を知らず>です。

 私の願いで、石垣の親友であり「さがり花」の作曲者でもある慶田城用紀さんに秘密の場所のホタルを見に連れていってもらったことがありました。その感動も忘れられません。
獣道も無いような藪(やぶ)の中を通ってある場所に。静かに目を凝らす我々。
 待つことどれ程の時間だったでしょうか、そこかしこから光り始めた時は心もときめきました。
その光の淡さに一瞬全ての時間が止まったかのように感じたのを思いだします。ヤエヤマボタルですね!  「これがそうです」と言って私の手のひらに置かれたその小さなこと。
ゲンジボタルが約15ミリなのに対して日本最小のヤエヤマボタルは4ミリ〜6ミリだそうですから私が驚いたのも無理からぬこと。
 今回あらためてバンナ公園の「世界の昆虫館」館長の山田守さんに伺って確かめたのですが、光るのはオスでメスはほとんど光らないこと。
 一年かけて成虫になり寿命は1週間程度。
光っている時間は日没後の30分ほどだそうです。そして光の点滅はとても速く、ある資料によれば他の種は約4秒に1回とか2秒に1回なのにヤエヤマボタルは1秒間に3〜5回であるらしい。それが群舞となれば・・・。
 その幻想的な美しさはきっと言葉にならないほどの美しさになる筈です。
速い点滅が低くゆったりと飛び交う世界を是非また観たいですね。と同時に、このヤエヤマボタルを歌う新しいわらべ唄、あるいは愛唱歌ができないものかと思います。
 石垣島と西表島のみに生息するこの貴重なホタル、その環境を守るためにひっそりとホタルの求愛を鑑賞させて頂いて、その後歌って「ゆんたく」する、この案いかがでしょう。





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