八重山毎日新聞社コラム

「やいま千思万想」No.06


【掲載:2013/06/27(木曜日)】

やいま千思万想(第06回)

「大阪コレギウム・ムジクム」主宰 指揮者 当間修一

[小さな動きで最大の効果を生む「人間の声」]

 人間は顔の表情や声の高さ、色で感情を表現します。
笑顔は人間の大きな特徴ですね。
平穏は人間を柔和にします。
笑顔は柔和な時に表れます。
何と不思議な動きを顔の筋肉はするのでしょう。
また、怒った時、戸惑った時、驚いた時、疑問に出くわした時など、その動きはさらに繊細で複雑なものとなります。
顔の筋肉群(表情筋)は素晴らしい動きをする摩訶不思議な芸術作品です。
人間が人間を理解しようとする時、相手の表情を見るのが最初ですね。
その表情の反応を見ながら、自分との距離感や親密度を計ろうとします。
表情はそれほどに「その人自身」を表すものだと人間は知っているわけです。
そしてもう一つの人間の特徴であり、感情表現手段、それが「声」ですね。

 今回はその「声」について書いてみることにします。
声って不思議なものです。
その発声の仕組みは単純なのですが、その調整、コントロールの仕方は実に複雑。
この世の中にあるどのような精巧な機械も及びません。
小さな動きで最大の効果を生む、それが「人間の声」です。
 声には二つの種類があります。
表声(地声)と裏声(ファルセット)とに分けます。
表声の特徴は力強く重々しく、裏声は鍛えさえすれば表声にも負けないほどに力強くなり、明るく驚くほどに遠くへ飛んでいく声となる特徴を持ちます。
これをお読みなっている皆さんはどれほどの高い声を出すことができるでしょうか?
またどれほどの低い声を出すことができるでしょうか?
男の方でしたら、低いところから高く上がっていき、途中で音色が変わることを体験する筈なのですが、音色が変わったところ(声がひっくり返ったところ)から更に高くして天にも届くような声を日常的に発しているでしょうか?。

 近年、人間の声はどんどん低くなっているように思われます。
女性が顕著です。
すでに男声の音域に近づきつつあります。
現代社会の特徴でしょう。
環境、生活様式とも関連するのですが、女性の声は昔は裏声、しかし近年は表声になったと言えるのですね。(ちなみに男性の声は高くなってきています。女性の男性化、男性の女性化です。八重山もその例外ではないと思われます)
 私は音楽家として毎日「声」に関心を持っているのですが、人間の感情の幅を広げるためにも、人間の思いの丈を相手に届けるためにも、最も低い声から最も高い声まで発することを提案したいと思っています。
 人と人とをつなぐ声は平坦で同じ低い声ばかりでなく、また怒鳴り声のような強い声ばかりでもなく、時には甘く囁くように、そして恋心を伝えるときのようなあの昔の八重山「歌垣」にならって、思いの強さ真剣さを象徴する低音から、思いを突き抜けるような高い声まで、声の可能性を最大限に利用して想いを伝えなければ、と思うのです。
 人間が持つ本質的な特徴である顔と声。
それらを一杯働かせ、思いをそれに乗せて、人間全開の表現力を私自身鍛えたいと思っています。





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