八重山毎日新聞社コラム

「やいま千思万想」No.106


【掲載:2017/08/04(金曜日)】

やいま千思万想(第106回)

「大阪コレギウム・ムジクム」主宰 指揮者 当間修一

根っこに愛を感じさせる触れ合い

 イタリア演奏旅行の話が続いていますが、この話題は今回で終わりです。
イタリアの人たちの「親交を深め合おう」とする根っこに愛を感じる人間性を書きたいと思いました。
音楽を通しての心の深い触れ合い、音楽は人と人とを結ぶ真の文化の基層である、そのことを書きたいと思いました。
「マントヴァ室内楽フェスティバル」での招聘演奏。そのエキサイティングでセンセーショナルな出来事は私たちだけでなく、マントヴァに集まった人々にとっても驚きの連続ではなかったかと思います。
フェスティバルの初回からエンディングの演奏会までどんどんと街中に噂が広がっていった我々の演奏。
ホテルと演奏会場との行き来にメンバーたちを取り囲むようにして握手を求めたり、私に近づいてきて興奮度を伝えたり、その笑顔の素敵なこと。
次の演奏会にも行きたいので教えてくださいという方や、「あれがもう一度聞きたい」とのリクエストもあったりします。嬉しかったですね。
音楽祭の前半はこのように大きなうねり、盛り上がりを感じさせるものでした。

 後半に入って3日目の夜は初めての野外での演奏。
そのカスティリオーニ広場での様子がまた凄かったです。
夜の10時30分からのコンサート。私たちが会場に到着した頃には既に人が期待に満ちて広場に集まっていました。
演奏はここでも一曲終わる毎に熱気を帯びていきます。
終曲は超難度のバッハの曲。
その演奏に更に熱くなる聴衆。終了しても興奮冷めやらぬ聴衆は帰ろうとしません。
時間は11時をとうに過ぎています。お世話担当のニコロさんもどうしたものかと悩んでいます。
仕方なくアンコールを二曲演奏して無理矢理に終わらせました。

 そして翌日の最終回で起きた出来事は一生忘れることはないでしょう。
会場は満席、その上立ち見客も出て人があふれています。
さてその出来事とは、聖堂が静まりかえり、息を呑むような曲の出だしに起こりました。
教会の鐘が鳴り始めたのです!演奏を始めたものの、直ぐさま指揮をやめて曲を止めます。
少し間が空きます。
この時です、一部の聴衆の拍手。
そしてその拍手は広がって満場の聖堂に鳴り響きました。
「いいですよ!鳴り止むまで待ちましょう」との思いの拍手。振り返って見れば「笑顔」で聴衆は応えてくれています。
鐘の音はそれからしばらく止むことがなかったのですが、その間の、何と豊かな静寂の時間だったか。
曲を演奏し終えたとき、怒濤のスタンディングオーベーション。
終わると同時に聴衆は私たちを取り囲み、握手を求め、称賛の言葉の嵐です。
ニコロさんに「アナウンスを」とサインを送るまでコンサートは終わりそうにない有様でした。

 マントヴァの街にセンセーションを巻き起こした演奏会。
音楽を通して人と人とが熱い思いで触れ合い、結び合った時の流れでした。
一ヶ月ほどしてフェスティバルのスタッフからメールが届きます。
「今でも貴方たちの演奏は街の噂になっているよ」と。





戻る戻る ホームホーム 次へ次へ