八重山日報コラム

「音楽旅歩き」No.16


【掲載:2013/10/27】

音楽旅歩き 第16回

「大阪コレギウム・ムジクム」主宰 指揮者  当間修一

[紙に書く行為はクリエーター達との創作]

 鉛筆で書くことが少なくなって久しいです。
今ではコンピュータのキーボードを叩いて書くことが多くなっています。
作曲や編曲をするときも現在ではコンピュータ。
しかし、曲の構想を練るときは紙の五線紙に書くことから始めるのが私流。
その紙に書く行為は何故か神聖な気持ちとなるから不思議です。
 それはある儀式から始まります。
鉛筆や消しゴム、定規が机の上に広げられた五線紙の横に並べられます。
一つ一つ祈りにも似た気持ちで並べていきます。
鉛筆は3Bを選び、小刀で丁寧に先を削ります。
芯をどれ程の長さにするか、木の部分の角度は如何ほどか、それは心を鎮めての穏やかな始まりです。
実はこの静かな準備、始まりは曲の構想を練る開始も兼ねます。
 削り終わった時に第一音が書かれることが多く、一気に数小節を書き進めることもあります。
書くことが神聖ならば、それに用いられる道具もまた神聖。
文房具はその時、特別の意味を持ったものとなります。
その道具のお気に入り探しは切実で拘(こだわ)りです。
 日本製もアイデア一杯で悪くはないのですが、ドイツ製に見られる職人気質(かたぎ)、「用いる人」を意識した作りは素晴らしく、私のお気に入りが一番多いかもしれません。
色が豊富、美しくて使いやすいデザイン。
そのデザインは小さな子どもでも扱い易く、また安全性も優先的に保たれています。

 「消せる色鉛筆(24本セット)」なるものがあります。
私の必須アイテムです。
楽譜を読む(スコアリーディング)時に用います。
色分けをしてオーケストラの旋律やリズムを読み取るのですね。
脳が理解するためにはこの色分けによるリーディングがとても良い方法なのです。
消せる色鉛筆もまた、選びは真剣です。
 更に消しゴムも数種類が机に並べられています。
細かい部分を消すためのもの、広い領域を消すもの、そして消し屑を払う羽根と消しゴム屑クリーナーが置かれています。
また筆記用具ではないのですが、机の上部に開かれた私のお気に入り手帳。
 この手帳、ページの右下にミシン目があり、書き込みが済むごとにページの隅を切り取っていきます。
ページを開くときはそれを利用して開ければいいわけです。
栞(しおり)ひもが二本あるタイプもあるのですが、このミシン目がお気に入りです。
それらに囲まれての作業、一旦書き始めれば一日中作業は続きます。

 書く行為はできるだけ機械ではなく手と腕で、と思う私。
その方が体に湧き起こるエネルギーを音符に注ぎやすい、いや、だからこそ音符は生きるのだと思っているのですね。
体と紙面を繋ぐ文房具、書く行為に特別な意味をもたらします。

 私の机の上に並べられたこの道具たち、道具作りのクリエーターが知恵を絞り、捻出して創作したもの。
そしてアイデアを出して形にするまでにどれ程の人が関わっていることか。
これらに触発され、助けられ、励まされて創作が続けられます。
その連鎖に感謝と感動を改めて覚えるのです。





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