八重山日報コラム

「音楽旅歩き」No.29


【掲載:2014/04/27】

音楽旅歩き 第29回

「大阪コレギウム・ムジクム」主宰 指揮者  当間修一

[音楽の歴史の中、私は今どの位置にいるか(4)]

 本格的な「パイプオルガン」(パイプが数千本)という楽器、石垣には無いですね。
まあなくてもよいかとも私は思っているのですが(理由は追々かきますね)、西洋音楽を鑑賞するためには絶対に必要な楽器です。
偉大な西洋の作曲家はこの楽器の影響を幼い頃から強く受け、それを基盤に音を書いてきているからです。
パイプオルガンという楽器、日本で昔よく見かけた脚踏み式のオルガンのような小さなものから2階建ての一軒家ぐらいの大きなものまで多種あります。
西欧の有名なコンサートホールには必ずといっていいほどこの楽器が備わっています。
それがコンサートホールの標準です。
日本でもある時期から、競って大きなパイプオルガンが設置されるようになりました。
 この楽器、紀元前からあってその構造は至ってシンプルです。
大小様々な長さや形のパイプ(息を吹き込んで音を出す笛や、草笛のようなリードと呼ばれるものを震わせて音を出す筒状の楽器)に空気を送り込んで音を発するだけ。
鍵盤を押さえれば、連なっているパイプの下の栓が開かれて空気を送り込む仕組みになっています。

 この楽器に出会ったのが高校の時なのですね。
いよいよ西洋音楽の深みに填(は)まった時代でした。
歌をうたい、合奏で音楽の楽しみを知った私が、右手と左手と両足で幾つものメロディーを奏する喜びを知りました。
弾きながら音色を変えていくといったことも必要でそれも大きな演奏の魅力です。
演奏台は飛行機の操縦席に座った気分といっていいでしょうか。
音楽の全てを操ることのできる楽器、オーケストラと同じぐらい勇壮、重厚、華麗な音楽を奏でられる、そんな楽器と私は出会ってしまったのですね。

 パイプオルガンは石垣には不用だと先に書いてしまいました。
何故だと言えば、高温多湿の気候が楽器の保存に適していないことが一つ、そしてもう一つはその音色を聴けばヨーロッパ文化の基層と密接に関与しているキリスト教のイメージを強く感じる楽器であること。
その響きは島の伝統や気候に合う、とは言い切れないものを感ずる私なのです。
しかし何度も言っておきたいのですが、西欧音楽の基盤はパイプオルガンにあるといっても過言ではありません。
その意味では不可欠な楽器です。
私はその奏者であり、30年にわたって教会で弾くことになりました。(近年では指揮活動が忙しく弾くことが叶わないでいますが)
 西欧の響きにどっぷりと浸かった私。
知識と体験と仕事の内容はまさしく西欧人。
日本の伝統音楽に敢(あ)えて背を向けていた私が、自分の中に流れる日本的なものに気付いたときから私の第二の活動が始まったと言えます。

 八重山には三線や太鼓が実に似合います。
パイプオルガンの金属で作られたパイプ音(木で作られたものもあります)に似合うのは煉瓦造りや石造りの天井の高い広い屋内です。
楽器の王様と呼ばれるこの楽器にはそういった環境が似合っています。
(この項つづきます)





戻る戻る ホームホーム 次へ次へ