八重山日報コラム

「音楽旅歩き」No.41


【掲載:2014/10/12】

音楽旅歩き 第41回

「大阪コレギウム・ムジクム」主宰 指揮者  当間修一

[ベートーヴェンの「第九」とは何か?]

 作曲家とその作品は、作曲家が生きた時代に影響されます。
作曲家は未来を見据えて作品を書く、とよく言われますが、それだってその時代を生きているからこその創作姿勢です。
「楽聖」と呼ばれているベートーヴェンもその例外ではありませんでした。

 今回からベートーヴェンの「人と作品」を概観しようと思います。
本格的には歴史的名著も多い作曲家のこと、小論ではそれらの内容に及ぶものではありませんが、実践を通して識って、感じたことを少し書いてみたいと思いました。それではベートーヴェンについての前知識から。
 ベートーヴェンの生きた時代(1770年12月16日頃ドイツ〈神聖ローマ帝国〉のボン〜1827年3月26日ウィーン〈オーストリア帝国〉〔満56歳没〕)、それはイギリス産業革命・アメリカ独立戦争、そしてフランス革命が同時進行で起こっていた葛藤と戦いの時代です。(ちなみに、日本では江戸時代後期の元禄文化とそれに続く化政文化(かせいぶんか)。
町人文化が大いに発展した時代)こういった歴史の流れを背景にして彼の音楽での革命的な生き方もまた生まれます。
音楽の中に、闘争、愛、希望、勝利・歓喜といった概念を持ち込もうとしたことも頷(うなず)けます。
 さて、ベートーヴェンの演奏で演奏者が一番気になること、それはテンポです。
特に交響曲に起こるのですが、彼が指定しているものは現代においてもとても早すぎるテンポなのですね。
指定通り奏するためには極度の高度なテクニックと音楽性が要求されます。
 メトロノームってご存知ですね。演奏の速さを示す道具です。
ベートーヴェン以前の楽譜には存在していなかったテンポ速度をこの機械で指定します。
メトロノーム、それはドイツのヨハン・ネポムク・メルツェルが1816年に作った機械で、音楽家で最初に利用したのはベートーヴェンでした。そのテンポが速い!ということなのですね。
 私も最初に演奏した時のテンポはそれに従おうとしたのですが、演奏者にとっては当時不可能に近いものだったこともあって、たいそう苦戦した思い出があります。
しかし、いまでは随分と指定テンポに近い演奏も増えているようです。

 当時を思い返せば私のアプローチも革新的だったと、今では隔世の感がありますね。このテンポの解釈、喧々諤々(けんけんがくがく)いろいろありました。
指定通りに演奏すべきだ、という派。
いやあの数字は信用できない、そもそもメトロノーム自体が壊れていた、という説。
もう一つは「数え方が違っていた。
あれは倍の遅さで演奏すべきだ」という説もあったりで面白いです(実際にその遅さで演奏したCDがあるとか)。

 さて、当面は交響曲第9番「合唱付き」に向かって筆を進めていくことにしましょう。
全世界の協和と平和への賛歌だと称賛されている曲へと。





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