八重山日報コラム

「音楽旅歩き」No.112


【掲載:2018/01/21(日)】

音楽旅歩き 第112回

「大阪コレギウム・ムジクム」主宰 指揮者  当間修一

大学合唱団の情熱的な演奏に思う

 年末から今年の1月にかけて、大学生の演奏会での指揮が集中します。
年度末ということで大学の合唱団の晴れ舞台となって学生にとっては学生生活を締めくくる大事な行事です。
私は現在二つの大学を指導する指揮者としてもステージに立つことになっています。
この時期は大学に訪れて練習も多くなり、技術指導(発声やハーモニー作り、そして音楽の取りまとめ)も熱が入り、訪れる毎に学生たちの顔も引き締まっていきます。二つの大学とは、大阪薬科大学そして大阪府立大学です。

 大阪薬科大学の方は今年第47回の定期演奏会となりますからかなり長く付き合っている関係。
引き受けた頃は〈合唱嫌いにならないように〉というのが私の掲げた指導目標。
大学に入ってから音楽(合唱)を始めたという学生も多く、高いレベルでの演奏を望むというよりは合唱の楽しみ、仲間作りといったことに重点を置いていたように思います。
ステージ上で演奏が止まってしまうのではないかと思うような苦い経験もしました。
技術的にはお世辞にも高いとは言えない「薬混」の演奏会が毎年続いたことを思い出し、今でも胸がドキドキします。
私がとった方法はとにかく待つ。
学生たちが〈巧くなりたい!〉〈一定レベルの目標を定めて邁進したい〉、そう思う時をひたすら待つ、それを何年も続けた私です(一年毎に遅々としたレベルアップを狙いました)。
そんな合唱団がこの二、三年、見違えるような「感動的」な演奏をする団に成長しました。
待った甲斐(かい)があったと言うことでしょうか、まさに私が目指したものが生まれた!ということになります。
合唱団としての「歴史」が真の意味で刻まれ始めた、ということです。それは〈高水準〉としての歴史です。

 もう一つの大阪府立大学合唱団(「エヴァ・コール[EWA CHOR])は今年第59回目を迎える歴史ある合唱団です。
これも思い出します。指導を引き受けた頃は自他共に認める〈下手〉な合唱団でした。
一人一人は能力も高く、何に対しても情熱的に取り組むという性格はあったのですが、結果としてはまとまることができない、それぞれがそれぞれにバラバラとなって歌っているという有様でした。
それが今では全国的に言っても最高レベルの演奏ができる団になっています。
ハーモニーも一級。アンサンブル的には世界的なレベルと言って良いと思います。
そして私を鼓舞させるのは、曲の内容に添った感情表現を突き詰めようとするエネルギー、それを支える情熱が並ではないということ。
新しいものに挑戦する姿勢も小気味よく、巧くなりたいという良い意味での〈貪欲さ〉も私にとっては頼もしい。
今回ステージで泣いてしまいました。学生たちも泣きながら歌っています。音楽の内容に即しての涙です。
こんな音楽の高揚はそうあるものではありません。
彼らが未来にどうこの経験を活かしてくれるか。音楽の力を信じたい、それが今の私の胸中です。





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