執筆:当間


ハイドン(その3)

<「悪妻」と人は言うけれど>


音楽史上最大の悪妻と言われたのは誰だと思います?
そう、もうお解りだと思いますがハイドンの奥さんなんですね。
その名は マリア・アンナ・アロイジァ。

例えば、こんな風なんです。
オラトリオ<天地創造>が大成功だとの報告を受けとったときの彼女、「評判がいいようだね。もっとも私の知ったことじゃないけどさ」と言ったんですって。
ハイドン先生も負けてやいません。
「あれにとっては亭主が靴屋だろうと芸術家だろうと、そんなことはどうでもいいのさ」と言ったとか。
とにかく、年がら年中わめき散らしていたというイメージなんですね。
しかし、それにしてもハイドン先生が苦労して書いた交響曲のスコアを破いて、その紙で野菜を包んだという話はちょっときつすぎると思いません?
ハイドン先生も自制心が一際だっているのか、驚くべき忍耐力といいますか、人間が出来ていたんですね。この妻が亡くなった後も再婚することなく彼女と一生を過ごしているんです。
しかし、そのハイドン先生も<浮気>をしたことがあって、イタリア人で歌手であったその浮気相手に送った手紙の中でとんでもないことを書いています。
向こうの旦那の目と、こちらの女房の目のことをいって、「待ち遠しかった瞬間が、二組の眼が閉じる瞬間が恐らく来るかもしれない。一組はすでに・・・・。あと一組は?」と、
恐ろしいですね・・・・・
妻の方も妻の方なんですね。ウィーン郊外に手ごろな家を見つけてそれを購入したいという無理難題の手紙を送っているのですが、その中で「将来私が未亡人になったらそこに住みたいと思うから・・・・」と書いているんです。
ハイドン先生より、3歳年長の姉さん女房なんです。ご本人はハイドン先生が先に逝って、自分は未亡人になるということだったんですね。
しかしこの女房、未亡人ではなく71歳の大往生を遂げます。傍らには67歳のハイドン先生がおられたというわけです。
妻の死を願ったこともあるハイドン先生、「神の御心のままというばかりである」と言ったとか。

浪費家であったとする彼女、相当の借金があったらしく<お金>に関してもハイドン先生は苦労しているようです。
そのためか「ハイドンはケチである」と噂されています。
たしかに金銭には関して大変にうるさかったことは事実のようなのですが、これはまぁ職人としての自負が強かった者としてある程度当然のような気がします。
ただ、貰ったお金は自分の縁者、および昔世話になった人々の子供たちにも分けていたといいます。
「パパ・ハイドン」の面目躍如たるものですね。ただし、遺産の分配の中に浮気相手への慰謝料のようなものもあって、事細かく計算をして遺贈することを書き記した遺言書があったことも付加しておきますね。

床屋の娘に恋をしたハイドン先生。
しかし、お目当ては二人娘の下の方だったんです。しかしその娘は修道院へ。
床屋の父親、その代わりとしてこともあろうに姉のアロイジァをハイドンに押しつけたんですね。
結婚させられたハイドンが不幸だったのか、当人のアロイジァが不幸だったのか。
ハイドンよりも3歳年上の、性悪で無教養な音楽史上最大の悪妻と言われているマリア・アンナ・アロイジァ。
しかし、結果的にはハイドンは大音楽家として名を残し、本人は大往生を遂げるんですね。
ハイドン先生にとって<悪妻>だったからこそ名曲も生まれた、ということにもなります。
何が理想の夫婦かは判りませんね。端からみた夫婦観などハイドン先生の例を持ち出すまでもなくあてにならないものかも知れません。

「<悪妻>と人は言うけれど」の項を終わります。


 

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