執筆:当間


木下牧子作品展2「合唱の世界」改訂初演

無伴奏二重混声合唱<仏の見たる幻想の世界>


萩原朔太郎(はぎわら さくたろう) 明治19年〜昭和17年(1886〜1942)
大正・昭和期詩人の代表といわれている。
病的な感覚で表現された「月に吠える」(大正6)、憂鬱な世界の「青猫(あおねこ)」(大正12)で見事な口語詩を完成した。

仏の見たる幻想の世界は詩集「青猫」に含まれます。

朔太郎は「すべてのよい叙情詩には、理屈や言葉で説明することの出来ない一種の美感が伴う。これを詩の<におい>という」と書きました。また、「詩とは感情の神経を掴んだものである。生きて働く心理学である。・・・・・言葉や文章では言い表しがたい複雑な特殊な感情を私は自分の詩のリズムによって表現する」とも言っています。
朔太郎は無類の音楽愛好家。
マンドリンを弾き、晩年までギターを愛し、「僕は青年期のすべての歴史は、全く音楽のために空費したようなものであった」と漏らしています。
その詩の世界は、音感と言語感覚とが密接に結びついたものでした。

曲は無伴奏の二重合唱。
木下牧子さんは大変難しい曲を書かれた、それが最初の印象ですね。混沌とした音の運び、そしてハーモニー、これをどう処理するか、難題なんです。
演奏でのバランスがポイントなんですが、これがまたやっかいな問題を含んで一筋縄ではいかない。
しかし、この曲に流れる官能的で優美な感覚はこの詩の持っている世界そのもの、これには感心させられてしまいます。
この詩に流れる「幻想」と「思慕」、「酔(よい)」と「香気」、しかしベースに流れる<憂鬱><無為><倦怠>を含んだ精神的な孤独、ここはシュッツ合唱団の響きとどう結びつくか、私も楽しみな演奏なんです。

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