執筆:当間


木下牧子作品展2「合唱の世界」新作初演

混声合唱と管弦楽のための<虚無の未来へ>


蔵原伸二郎 明治32年-昭和40年(1899-1965)

慶大仏文科卒。初め短編小説家として出発し、
萩原朔太郎の影響を受け、詩壇に登場。
東洋風な虚無主義と原始的感情を盛った「東洋の満月」、
戦時中の「戦闘機」「天日のこら」「暦日の鬼」と続く。
戦後は「乾いた道」に次いで、生の本源への郷愁をよく成熟させた詩集「岩魚」で読売文学賞を受賞。白血病のため65才で没した。    (「新潮 日本文学小辞典」より)
木下牧子さんは混声合唱組曲「光る刻」の中でも蔵原伸二郎の名詩、「老いたきつね」に曲を書いています。

木下牧子さんによると、題名の<虚無の未来へ>は、詩集「乾いた道」の「しずかな秋」から取ったということです。
蔵原伸二郎の世界、それは東洋と西洋の接点にある新しい詩の構想。寂寥、無、永遠を感性的表現の基としたことでした。

「卵のかげ」は人間の根元的な不安の状態を描きました。宇宙的志向、詩人が感じたのは虚無の美だったのです。
曲はオーケストラによる神秘的な宇宙の空間を思わせるような前奏から始まります。弦楽器に多く現れるグリッサンド奏法は人間の叫び、悲しみ、夢、不安な心などの浮遊を表しているのでしょうか。

固い殻をかぶったまま無言のドングリが寝そべっている。その殻は人間の苦労と不安。
冷えた太陽、辺りは寂寥の世界。人間の荒涼たる、空虚なこころ。
永劫なる非情、索漠とした世界をオーケストラが特徴あるリズムで刻んでいきます。

この詩は叙情詩などではない、これは理性的思惟によった詩。
永遠のことばのない世界の暗示。無限の寂寥の空間。
一本の草にすがり最後の生の信号を送る蝶、その生が息絶えるとき、<無>は永遠のやすらぎとなるのです。

純粋の清らかさ、高貴さの抽象としての「石」。
この永劫なる空間。
一切の存在が無の顕在として、二十億年の寂寥に耐えているその石の上を横切っていく。
すべての存在、それは消滅するためにちからいっぱい今を光らせるのです。

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