じゅずシュッツ

「シュッツの会」便り団内版に連載中のリレーエッセイ”じゅずシュッツ”よりお届けします。


 1992  
          SEPTEMBER           
                    「池内 茂(いけちゃん)」
                                     の巻         

カウンターテナーの期待の☆、大阪コレギウム・ムジクムCD委員長のいけちゃんは、今、新作CD「武満 徹」が完成してほっとしています〜


 先日ビデオを観ました。
私はそのタイトルさえ知らなかったのですが,友人の大の お気に入りの作品で、観ろ観ろとやかましく言ってきたものです。

そのタイトルは「仮面の中のアリア」 (原題は"Le Maitre de Musique"音楽の先生という意味)」。

すでに何人かの方たちには話したのですが,その物語を簡単に説明すると・・・。

 時代は今世紀初頭、天才と呼ばれたバリトン歌手ジョアキム(演ずるは実際にバス ・バリ歌手であるホセ・ファン・ダム)の演奏会から映画の幕は開きます。
場内のわれんばかりの拍手喝采に応えアンコール曲を熱唱(これがまたいい!)した後, ジョアキムは突然の引退を表明します。
良き理解者,パートナーであった妻も全く知らなかった程の突然の引退に人々は驚きま すが,「何故?」という問いに対しジョアキムは,若く才能のあるもののために学校を 開きたいと答えます。

やがてソフィという名の若い女性がそのたった一人の生徒となり,ジョアキムとその妻 と,ソフィとの三人だけの生活が始まります
(そう、ジョアキムの住む屋敷でその学校は開かれるのです)。

厳しい授業の内にジョアキムに対し,尊敬とほのかな恋心を抱くソフィ,そして 彼女の若さと美しさを見,ジョアキムに対して「あなたはあの子に心惹かれるわ。」 とつぶやかずにいられない妻と,その言葉に対して「そんなことはないよ」と否定し つつもやはり心動かされてしまうジョアキム。

この辺の心理描写がさりげなく描かれていてとても良いのですが,ここで新たな人物 が加わります。
その人物の名はジャン。
ジョアキムが町に所用で出かけた際に見つけ、連れ帰ったスリ、コソ泥です。
いかにもズル賢そうな顔と下品な態度と身なりをしたこの男の声を町で聞いたジョア キムは,彼をテノール歌手に仕立てようとするのですが,教育らしい教育を受けず, ましてや音楽など学んだことのないジャンに授業は難行します (このソフィやジャンの受ける授業での言葉一つ一つは私に とっても非常にためになったような気がします)。

やがてある程度上手くなった頃(実はここまでの間に名シーン・エピソードがいくつか あるのですが),スコティ公主催のコンクールの招待状がジョアキムの二人の生徒 に届きます。
スコティ公は音楽好きの金持ちで,商業主義的に傾いたところを持つ点がジョアキム と合わないこと,そしてスコティ公自身は昔は歌手であったのですが,ジョアキムに 勝負を挑んで破れ,その声をつぶしたため,それ以来ジョアキムに対して恨みを持つ ようになった人物でした。
 当然ジョアキムはよい顔をしませんが,結局二人がコンクールに出ることを認め, 当日も見送りに行きます。
しかし,彼らを会場に送った後に自分は留まらずに帰宅してしまいます。
さて案の定色々とたくらんでいたスコティ公は,ジョアキムが来なかったことを聞 き非常にくやしがりますが,ジョアキムの弟子を自分の弟子アルカス(テノール歌 手)が打ち負かすことで恨みを晴らそうとします。

そしてある時ジョアキムの弟子ジャンが,自分の弟子アルカスと全く同じ声を持つ ことを知ったスコティ公は,練習の時にアルカスの技量と,その声がジャンと同じ であることをジャンに見せつけ,精神的プレッシャーを与えようとします。
さらにコンクールの発表順を操作し,ソフィを一番歌いづらいとされる一番目に あてます。策略に気付き,帰ることを提案するソフィに対し,ジャンはある計画 を話します(それがなんであるかは映画で)。

 そして当日,素晴らしいジャンとソフィの歌に対する拍手を聞き,くやしがる スコティ公は聴衆に対してスピーチをし,アルカスとジャンの歌較べ提案される よううながし,ジャンはそれに答えます。
審査の公平さを保つため,仮面と衣装をつけての歌較べが始まりますが・・・。

 とまあ大筋はよくあるパターンかもしれませんが,劇中で使われる音楽, マーラー「大地の歌」,第3楽章「リュッケル トの詩による五つの歌曲」,モーツァルト「ドン・ジョバンニ」より 「お手をどうぞ」,シューベルトの「音楽に寄す」, シューマン「ケルナーの詩による12の歌曲」より「ひそかな涙」 などなど,とにかく美しくかつ意味深なのでした。

場面場面に流れる曲それぞれに意味があり,それらが微妙な言葉のかけひきをあ いまって,心の奥にある秘やかな想いをさりげなく表現しているのです。
この映画は一度観て筋と,言葉で表現される心の動きと行動を知り,二度観て それがどういう心情で,どういう理由でそうなったかわかる,といった感じの 映画であり,音楽に対する理解と愛情が無ければつくれない映画のように思います。

 筋も全部ここで書いてしまうと映画が面白くなくなるといけないのでほんの骨組 み部分しか書いていません(そのつもりですが・・・)。
少しでも興味がありましたらぜひ御鑑賞を。
私の最近特に気に入っている映画の一本でした。

はい,もうお時間来てしまいました。またいつかお会いしましょうね,
さいなら さいなら さいなら・・・。




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